『源氏物語』葵(物の怪)① 現代語訳・品詞分解・敬語・解説|テスト予想問題付き

目次
  1. 原文の読み方
  2. 現代語訳・品詞分解・解説
  3. 離れない物の怪
  4. 病床の葵の上
  5. テスト予想問題

『源氏物語(げんじものがたり)』葵(あおい)の巻、「葵の上に取り憑く物の怪」の場面の前半、「まださるべきほどにもあらず」から「いかがあはれの浅からむ」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です(全2回の①)。

出産を前に、物の怪に取り憑かれて苦しむ葵の上。物の怪は「大将(光源氏)に申し上げたいことがある」と言い出します。几帳の中に入った光源氏は、病床の妻の姿を見て、これまでにない愛情を覚えます。

原文の読み方

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現代語訳・品詞分解・解説

離れない物の怪

原文
「まだ副さるべきほどに断定連用も係助強意あら補・ラ変未然ず打消終止。」と格助引用みな人ひとも係助添加たゆみマ四連用たまへ補・ハ四已然尊→左大臣家の人々る完了連体に格助時間、にはかにナリ連用御気色おほんけしきありラ変連用て接助状態悩みマ四連用たまへ補・ハ四已然尊→葵の上ば接助順接確定、

現代語訳「まだ(出産の)時期でもない」と誰もが油断なさっていたところに、急に産気づいて(葵の上が)お苦しみになるので、

さるべきほど
(出産が)あるはずの時期。
たゆむ
油断する。
御気色あり
産気づく。
悩む
(病気で)苦しむ。
解説

「たまへる」の主語は「みな人」(左大臣家の人々)、「悩みたまへ」の主語は葵の上。

原文
いとどしきシク連体御祈祷おほんいのり数かずを格助対象尽くしサ四連用て接助状態せサ変未然させ使役連用たまへ補・ハ四已然尊→左大臣と大宮れ完了已然ど接助逆接確定、例れいの格助体修執念しふねきク連体御物の怪おほんもののけひとつさらに副動かカ四未然ず打消終止。

現代語訳(左大臣家では)いっそう激しいご祈祷を、ありったけの数をつくして(僧たちに)おさせになるけれど、例の執念深い物の怪が一つ、まったく(葵の上から)離れない。

いとどし
いっそう激しい。
執念し
執念深い。
さらに〜ず
まったく〜ない。
解説

「せさせたまへれ」は、左大臣家の人々(葵の上の両親)が、僧たちに祈祷をさせるということ。

「例の執念き御物の怪ひとつ」は、のちに六条の御息所(の生霊)であるとわかる。

原文
やむごとなきク連体験者げんざども、めづらかなりナリ終止と格助引用もて悩なやむマ四終止。さすがにナリ連用いみじうシク連用・音調てうぜサ変未然られ受身連用て接助原因、心苦しげにナリ連用泣きわびバ上二連用て接助単純接続、

現代語訳すぐれた験者たちも、めったにないことだとてこずっている。(それでも物の怪は)やはりひどく調伏されて、つらそうに泣き苦しんで、

やむごとなし
(ここでは)すぐれている。尊い。
験者
加持祈祷を行う僧。
めづらかなり
めったにない。
もて悩む
扱いに困る。
さすがに
そうはいってもやはり。
調ず
祈祷によって物の怪をこらしめる。
泣きわぶ
泣き苦しむ。
原文
「少し副ゆるべバ下二連用たまへ補・ハ四命令尊→験者や終助詠嘆。大将だいしやうに格助対象聞こゆヤ下二終止謙→光源氏べき意志連体ことありラ変終止。」と格助引用のたまふハ四終止尊→葵の上。

現代語訳「(祈祷を)少しゆるめてくださいな。大将(光源氏)に申し上げたいことがあります」とおっしゃる。

大将
光源氏。このとき右大将であった。
解説

この言葉を言ったのは、葵の上の口を借りた物の怪。周りの人々は葵の上自身の言葉だと思っているので、「のたまふ」と尊敬語が使われている。

「ゆるべたまへ」は、祈祷をゆるめてほしいということ。

原文
「さればよ。あるやうあらラ変未然む推量終止。」と格助引用て接助単純接続、近きク連体御几帳みきちやうの格助体修もとに格助場所入れラ下二連用たてまつり補・ラ四連用謙→光源氏たり完了終止。

現代語訳「思ったとおりだ。何かわけがあるのだろう」と言って、(女房たちは光源氏を)病床に近い御几帳のもとへお入れ申し上げた。

さればよ
やはりそうだ。思ったとおりだ。
あるやう
わけ。事情。
御几帳
室内に立てて仕切りにする道具。
解説

「入れたてまつりたり」の主語は女房たち。謙譲語だけで尊敬語がないことに注意。光源氏を葵の上の近くにお入れした。

原文
むげに副限りの格助体修さまに格助状態ものしサ変連用たまふ補・ハ四連体尊→葵の上を接助順接確定、「聞こえ置かカ四未然謙→光源氏まほしき希望連体ことも係助添加おはするサ変連体尊→葵の上に断定連用や係助疑問。」と格助引用て接助原因、大臣おとども係助並列宮みやも係助並列少し副退しぞきカ四連用たまへ補・ハ四已然尊→左大臣と大宮り完了終止。

現代語訳(葵の上は)もうすっかり最期という様子でいらっしゃるので、「(光源氏に)遺言なさりたいこともおありなのだろうか」と考えて、左大臣も大宮も少し引き下がりなさった。

むげに
まったく。ひどく。
限り
最期。臨終。
ものす
(ここでは)いる。
聞こえ置く
「言ひ置く(言い残す)」の謙譲語。
解説

「限りのさま」は、葵の上の、最期が迫っている様子。

「聞こえ置かまほしきこともおはするにや」は、葵の上が光源氏に遺言したいことがあるのだろうか、という左大臣と大宮の推測。「にや」の後に「あらむ」が省略されている。

原文
加持かぢの格助体修僧そうども声こゑ静めマ下二連用て接助状態法華経ほけきやうを格助対象読みマ四連用たる存続連体、いみじうシク連用・音尊たふとしク終止。

現代語訳加持をする僧たちが、声を抑えて法華経を読んでいるのが、まことに尊く感じられる。

加持
(物の怪を退けるための)祈祷。
解説

物の怪の「少しゆるべたまへ」という言葉を受けて、僧たちは祈祷の声を低くしている。

病床の葵の上

原文
御几帳みきちやうの格助体修帷子かたびらひき上げガ下二連用て接助状態見マ上一連用たてまつり補・ラ四連用謙→葵の上たまへ補・ハ四已然尊→光源氏ば接助順接確定、いと副をかしげにナリ連用て接助状態、

現代語訳(光源氏が)御几帳の帷子をめくり上げて(葵の上を)拝見なさると、(葵の上は)たいそう美しい様子で、

帷子
几帳に掛けて垂らす布。
をかしげなり
美しい様子だ。
解説

「見たてまつりたまへ」は、光源氏が葵の上を見申し上げる。「たてまつり」は作者から葵の上への敬意、「たまへ」は作者から光源氏への敬意。

原文
御腹おほんはらは係助区別いみじうシク連用・音高うク連用・音て接助状態臥ふしサ四連用たまへ補・ハ四已然尊→葵の上る存続連体さま、よそ人びとだに副助類推見マ上一連用たてまつら補・ラ四未然謙→葵の上む仮定連体に格助時間心乱れラ下二連用ぬ強意終止べし推量終止。

現代語訳お腹がたいそう高くなって横になっていらっしゃる様子は、他人でさえ見申し上げたならば、きっと心が乱れるだろう。

よそ人
(夫婦ではない)他人。
解説

「よそ人だに」は、他人でさえ心が乱れるにちがいない、ということ。次の「まして」と組になり、他人と、夫である光源氏とを比べている(「AだにB、ましてC」の形)。

原文
まして副惜をしうシク連用・音悲しうシク連用・音おぼすサ四連体尊→光源氏、ことわりなりナリ終止。

現代語訳まして(夫の光源氏が)惜しく悲しくお思いになるのは、当然のことである。

ことわりなり
もっともだ。当然だ。
解説

「惜しう悲しうおぼす」の主語は光源氏。

原文
白きク連体御衣おほんぞに格助添加、色いろあひいと副華はなやかにナリ連用て接助状態、御髪みぐしの格助主格いと副長うク連用・音こちたきク連体を格助対象ひき結ゆひハ四連用て接助状態うち添へハ下二連用たる存続連体も係助添加、

現代語訳白いお召し物に、(黒い髪との)色の取り合わせがたいそう鮮やかで、御髪がとても長く豊かなのを引き結んで(体に)添えてあるのも、

御衣
お召し物。お産のときは白い衣服を着た。
こちたし
(量が)たいそう多い。
解説

「色あひ」は、白い衣服と、黒く長い髪との色の取り合わせ。

原文
「かうて副こそ係助強意、らうたげにナリ連用なまめきカ四連用たる存続連体方かた添ひハ四連用て接助状態をかしかりシク連用けれ詠嘆已然。」と格助引用見ゆヤ下二終止。

現代語訳「このようであってこそ、かわいらしく優美な趣も加わって魅力的なのだったよ」と(光源氏には)見える。

らうたげなり
かわいらしい。いじらしい。
なまめく
しっとりと優美である。
解説

「かうてこそ」は、このように(病気で)ふだんと違う様子であってこそ、ということ。ふだんの葵の上はとりすましていて親しみにくかったが、今は可憐で優美な趣が加わって魅力的に見える、という光源氏の思い。

原文
御手おほんてを格助対象とらへハ下二連用て接助単純接続、「あな感いみじシク終止。心憂こころうきク連体めを格助対象見せサ下二連用たまふ補・ハ四終止尊→葵の上かな終助詠嘆。」と格助引用て接助単純接続、ものも係助強意聞こえヤ下二連用謙→葵の上たまは補・ハ四未然尊→光源氏ず打消連用泣きカ四連用たまへ補・ハ四已然尊→光源氏ば接助順接確定、

現代語訳(光源氏が葵の上の)お手を取って、「ああ、ひどい。(私に)つらい思いをおさせになるのですね」と言って、ほかには何も申し上げなさらずにお泣きになるので、

心憂し
つらい。
解説

「心憂きめを見せたまふかな」は、(死んでしまいそうな様子で)私につらい思いをさせるのですね、という光源氏の嘆き。

「聞こえたまはず」「泣きたまへ」の主語は光源氏。

原文
例はいと副わづらはしうシク連用・音恥はづかしげなるナリ連体御おほんまみを格助対象、いと副たゆげにナリ連用見上げガ下二連用て接助状態うちまもりラ四連用きこえ補・ヤ下二連用謙→光源氏たまふ補・ハ四連体尊→葵の上に接助単純接続、

現代語訳(葵の上は)ふだんはとても気づまりで、こちらが気おくれするほど立派な目もとを、たいそうだるそうに見上げて(光源氏を)じっと見つめ申し上げなさるうちに、

例は
ふだんは。
わづらはし
気づまりだ。
恥づかしげなり
(こちらが)気おくれするほど立派だ。
まみ
目もと。目つき。
たゆげなり
だるそうだ。
うちまもる
じっと見つめる。
解説

「うちまもりきこえたまふ」は、葵の上が光源氏をじっと見つめ申し上げる。「きこえ」は作者から光源氏への敬意、「たまふ」は作者から葵の上への敬意。

「わづらはしう恥づかしげなる」は、光源氏がこれまで葵の上に感じていた気持ち。

原文
涙なみだの格助主格こぼるるラ下二連体さまを格助対象見マ上一連用たまふ補・ハ四連体尊→光源氏は係助区別、いかが副あはれの格助主格浅からク未然む推量連体。

現代語訳涙がこぼれる様子を(光源氏が)ご覧になると、どうして愛情が浅いことがあろうか、いや、浅いはずがない。

あはれ
(ここでは)愛情。
解説

「見たまふ」の主語は光源氏。

「いかがあはれの浅からむ」は反語。どうして愛情が浅いことがあろうか、いや、浅いはずがない。打ち解けなかった妻に、光源氏が初めて深い愛情を感じている。

続き:葵(物の怪)②

源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 若紫①「北山の垣間見」 車争い① 須磨①

テスト予想問題

A 読み・語句

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    ①執念き
    ②験者
    ③御几帳
    ④加持
    ⑤法華経
    ⑥帷子
    ⑦御髪
    ⑧大臣

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    ①しゅうねき
    ②げんざ
    ③みきちょう
    ④かじ
    ⑤ほけきょう
    ⑥かたびら
    ⑦みぐし
    ⑧おとど

  2. 次の語の本文中での意味を答えよ。
    ①たゆみ
    ②やむごとなき
    ③めづらかなり
    ④さればよ
    ⑤ことわりなり
    ⑥こちたき
    ⑦らうたげに
    ⑧うちまもり

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    ①油断し
    ②すぐれた。尊い
    ③めったにない
    ④やはりそうだ。思ったとおりだ
    ⑤もっともだ。当然だ
    ⑥(量が)たいそう多い
    ⑦かわいらしく。いじらしく
    ⑧じっと見つめ

B 文法・敬語

  1. 次の助動詞の意味と活用形を答えよ。
    ①せさせたまへれど(させ)
    ②せさせたまへれど(れ)
    ③心乱れぬべし(ぬ)
    ④心乱れぬべし(べし)
    ⑤うち添へたるも(たる)

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    ①使役・連用形
    ②完了・已然形
    ③強意・終止形
    ④推量・終止形
    ⑤存続・連体形

  2. 次の敬語について、種類を答え、だれからだれに向けた敬意かを示せ。
    ①大将に聞こゆべきことあり
    ②近き御几帳のもとに入れたてまつりたり
    ③見たてまつりたまへば(たてまつり・たまへ)
    ④うちまもりきこえたまふに(きこえ・たまふ)

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    ①謙譲語。物の怪(葵の上の口を借りた)から光源氏へ。
    ②謙譲語。作者から光源氏へ。
    ③たてまつり=謙譲語。作者から葵の上へ。たまへ=尊敬語。作者から光源氏へ。
    ④きこえ=謙譲語。作者から光源氏へ。たまふ=尊敬語。作者から葵の上へ。

C 現代語訳・内容

  1. 「少しゆるべたまへや。大将に聞こゆべきことあり」について、①実際にはだれの言葉か。②周りの人々は、だれのどのような言葉だと受け取ったか。

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    ①物の怪(葵の上の口を借りて言っている)
    ②葵の上が、最期に光源氏に言い残したいことがあると言っている言葉。(そのため「のたまふ」と尊敬語が使われている)

  2. 「さればよ。あるやうあらむ」を現代語訳せよ。また、これを言ってだれをどこに入れたのか。

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    やはりそうか。何かわけがあるのだろう。女房たちが、光源氏を葵の上の近くの御几帳のもとに入れた。

  3. 「聞こえ置かまほしきこともおはするにや」を現代語訳せよ。また、そう思ったのはだれか。

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    (光源氏に)言い残しておきたいこともおありなのだろうか。左大臣と大宮(葵の上の両親)。

  4. 「よそ人だに見たてまつらむに心乱れぬべし。まして惜しう悲しうおぼす、ことわりなり」を現代語訳せよ。また、ここで比べられているのはだれとだれか。

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    他人でさえ見申し上げたならばきっと心が乱れるだろう。まして(夫が)惜しく悲しくお思いになるのは当然である。他人と、夫の光源氏。

  5. 「色あひいと華やかにて」とあるが、何と何の色の取り合わせか。

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    白い衣服と、黒く長い髪。

  6. 「かうてこそ、らうたげになまめきたる方添ひてをかしかりけれ」について、①現代語訳せよ。②光源氏がふだんの葵の上をどう感じていたかがわかる語を、本文から二つ抜き出せ(終止形で)。

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    ①このようであってこそ、かわいらしく優美な趣が加わって魅力的なのだったよ。②わづらはし・恥づかしげなり

  7. 「いかがあはれの浅からむ」を現代語訳せよ。また、だれのだれに対する気持ちか。

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    どうして愛情が浅いことがあろうか、いや、浅いはずがない。光源氏の葵の上に対する気持ち。