行行重行行 与君生別離
行行重ねて行行
君と生きながら別離す
(あなたは)旅をして、さらに旅を続ける
(わたしは)あなたと生き別れの身になってしまった。
・君…旅に出て帰らない夫。
※いろいろな説があるが、帰らない夫を慕う妻の歌ととる。
相去万余里 各在天一涯
相去ること万余里
各天の一涯に在り
お互いに離れること一万余里、
それぞれ天の一方の果てに、はなればなれになっている。
・万余里…この上なく遠いことをいう。
・各…「おのおの」
道路阻且長 会面安可知
道路阻しく且つ長し
会面安くんぞ知るべけんや
二人を隔てる道は、けわしい上に遠い。
再び会えることなどは、どうしてわかろうか、(いや、わからない)。
〇安可~…「安くんぞ~べけんや」どうして~できるだろうか、いや~できない。
胡馬依北風 越鳥巣南枝
胡馬は北風に依り
越鳥は南枝に巣くふ
北方の胡の地から来た鳥は、北風に故郷をなつかしがり、
南方の越から来た鳥は、南の枝に巣を作る。
〇胡馬・越鳥…故郷を忘れず思うことをいう表現。
〇馬や鳥でも故郷を忘れず恋い慕うのに、あなた(夫)は恋しく思わないのか、ということを言っている。
相去日已遠 衣帯日已緩
相去ること日に已に遠く
衣帯日に已に緩し
互いの隔たりは日ごとに遠くなってゆき
私の着物の帯は、日ごとにゆるくなる。
〇衣帯日已緩…衣服と帯がゆるくなる
→作者(妻)が悲しみでやせ細ってしまったことを表現している。
浮雲蔽白日 遊子不顧返
浮雲白日を蔽ひ
遊子返るを顧はず
浮き雲が太陽をおおい隠し
あなたは、帰ろうともしてくれない。
・遊子…旅人。夫を指す。
〇浮き雲が太陽をおおい隠すように、夫の心に何かの迷いが生じたのだろうかという不安な気持ち。
※「浮雲」を「他の女」として、夫にほかの女ができたのではと疑う気持ちととることもできる。
思君令人老 歳月忽已晩
君を思へば人をして老いしむ
歳月忽ち已に晩れぬ
あなたを思うことは、わたしを老け込ませる。
年月はたちまちにして過ぎ去ってしまった。
・令AB…使役「AをしてBしむ」AにBさせる。
・忽…「たちまチ」
棄捐勿復道 努力加餐飯
棄捐して復た道ふこと勿からん
努力して餐飯を加へよ
もうあなたを思うことはうち棄てて、もう何も言うまい、
(あたなは)つとめて食事をとって、お体をたいせつにしてください。
※「棄捐せらるるも」と読み、「私はあなた(夫)に捨てられようとも」という意味にとることもある。
・道…「いフ」
・夫を思うことをやめようと言いつつ、夫を心配する言葉を続けている。
詩の形式 五言古詩
押韻「離・涯・知・枝」「緩・返・晩・飯」 途中で変わる(換韻)
対句 第七・八句「胡馬依北風・越鳥巣南枝」、第九・十句「相去日已遠・衣帯日已緩」