『枕草子(まくらのそうし)』「虫は」の現代語訳・品詞分解・解説です。
心ひかれる虫の名前を並べたあと、みの虫・ぬかづき虫・蠅・夏虫・蟻の五つについて、清少納言が感じたことを書いた段です。親に置き去りにされたみの虫の話、虫の姿を人の行いに重ねる見方、「あはれ」と「をかし」の使い分けがよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
虫の名を挙げる
現代語訳虫では、鈴虫(がよい)。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひを虫。蛍。
- 鈴虫
- 今の松虫のこと。
- 松虫
- 今の鈴虫のこと。昔と今とで名前が入れかわっている。
- きりぎりす
- 今のこおろぎ。
- はたおり
- 今のきりぎりす。鳴き声が機を織る音に似ている。
- われから
- 海藻についている小さな虫。和歌では「我から(自分のせいで)」と掛けてよまれる。
- ひを虫
- かげろう。命の短い、はかないもののたとえ。
ここで名前だけを挙げた虫は、和歌によまれてよく知られた虫。このあとの虫には説明が付き、筆者自身の見方や感じ方が書かれている。
みの虫
現代語訳みの虫は、とても哀れだ。鬼が生んだ子だというので、親に似てこの子も恐ろしい心を持っているだろうと思って、
- あはれなり
- しみじみと心を動かされる。哀れだ。
「生みたりければ」の「けれ」は、人から伝え聞いた話であることを表し、「生んだということなので」と訳す。
「これも」の「これ」はみの虫(鬼の子)。親の鬼と同じように、子にも恐ろしい心があるだろうと親が考えたのである。
現代語訳親が、粗末な着物を着せて、「もうすぐ秋風が吹くころには迎えに来ようと思う。それまで待っていなさいよ。」と言い残して、
- あやし
- 粗末だ、みすぼらしい。
- 衣
- 着物。ここはみの虫のみのを着物に見立てている。
- いま
- まもなく、じきに。
「吹かむ折」の「む」は婉曲(〜ような)、「来む」の「む」は意志(〜しよう)。
親のこの言葉は、また迎えに来ると約束したように見せて、子をだまして置き去りにするためのもの。
現代語訳(親が)逃げて行ってしまったのも知らずに、風の音を聞いて(秋が来たと)知り、八月ごろになると、
- 去ぬ
- 行ってしまう、去る。
- 聞き知る
- 聞いてそれと知る、聞き分ける。
- 八月
- 陰暦の八月。秋のなかば。
「逃げて去にけるも知らず」は、みの虫が、親が自分を捨てて逃げてしまったことを知らない、ということ。
「八月ばかり」は、親が約束した「秋風吹かむ折」にあたる時期。
現代語訳「父よ、父よ。」と心細げに鳴く、その様子はひどく哀れで胸にしみる。
- ちち
- 父。
- はかなげなり
- 心細そうだ、頼りなさそうだ。
実際にはみの虫は鳴かないが、筆者はその声を「父よ、父よ」と親を呼んで鳴く声と聞いている。
秋風が吹くころに来ると約束した親が、秋になっても来ないので、心細そうに鳴くと見て「いみじうあはれなり」と感じている。
ぬかづき虫
現代語訳ぬかづき虫も、これまた感心だ。あんな(小さな虫の)心にも仏を信じる心を起こして、額をついて歩き回っているのだろうよ。
- ぬかづき虫
- 今の米つき虫。頭を上下に動かして、額を地につくような動きをする。
- さる
- そのような。
- 道心
- 仏道を信じる心。
- つきありく
- 額をついて回る。
「さる心地に」は、あんな小さな虫の身で、その心の中に、ということ。
額をつくような動きを、人が仏を拝む姿に重ね、虫なのに信心を起こしているようだと見て「あはれなり」と言っている。
現代語訳思いがけず暗い所などで、ことことと音を立てて歩き回っているのは、おもしろい。
- 思ひかく
- 予想する。「思ひかけず」で、思いがけず。
- ほとめく
- ことことと音を立てる。
同じぬかづき虫でも、前の、虫の心の中を思いやったところでは「あはれなり」、ここの、音を立てて歩き回る様子には「をかし」と言い分けている。
蠅
現代語訳蠅こそは、憎らしいものの中に入れてしまうのが当然で、かわいげのないものである。
- 愛敬なし
- かわいげがない。
「入れつべく」は「きっと入れるのが当然な」の意。蠅を憎らしいものに数えるのは当然だという気持ち。
「蠅こそ〜ものはあれ」は、蠅ほど憎らしくてかわいげのないものはない、という強い言い方。
現代語訳一人前に扱って敵などにするほどの大きさではないが、
- 人々し
- 一人前だ、人並みだ。
- 敵
- 相手。ここは、本気で相手にする敵。
現代語訳秋などは、ただもうどんなものにでもとまり、顔などにぬれた足でとまっているのなどは(いやなものだ)よ。
- よろづ
- すべてのもの、あらゆるもの。
- ゐる
- (鳥や虫が)とまる。
「顔などに濡れ足して居る」は、ぬれた足で顔にとまられたときの感じを、肌の感覚(触覚)でとらえて書いたところ。
「居るなどよ」のあとに、「いやなものだ」という気持ちが省かれている。
- うとまし
- いやだ、気味が悪い。
「人の名につきたる」は、「蠅」という語が人の名前に使われていること。古い時代には、そうした名前の人がいた。
夏虫・蟻
- 夏虫
- 夏、灯火に集まってくる虫。
- らうたげなり
- かわいらしい様子だ。
現代語訳灯火を近くに引き寄せて物語などを読んでいると、本の上などを飛び回るのは、とてもおもしろい。
- 草子
- 紙を綴じた本。
灯火のそばで物語を読んでいると、本の上を飛び回る夏虫の様子を「をかし」と言っている。
現代語訳蟻は、とても憎らしいけれど、身軽なことはたいしたもので、水の上などをただもうどんどん歩き回っているのは、おもしろい。
- かろび
- 身の軽さ。
- いみじ
- はなはだしい。ここは、たいしたものだ。
- ただ
- ひたすら。
蟻そのものは憎いけれど、身軽に水の上をどんどん歩き回る様子は「をかし」と、よい点を見つけている。
『枕草子』のほかの章段:春はあけぼの / 木の花は / 九月ばかり / すさまじきもの① / かたはらいたきもの / 野分のまたの日こそ / 宮に初めて参りたるころ① / 中納言参りたまひて
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①八月
②草子
③愛敬
④蠅
⑤道心解答を見る
①はづき
②そうし
③あいぎょう
④はえ
⑤どうしん次の語句の本文中での意味を答えよ。
①あやしき(衣)
②いま(秋風吹かむ折)
③はかなげに
④人々しう
⑤うとまし
⑥らうたげなり
⑦かろび解答を見る
①粗末な・みすぼらしい
②まもなく・じきに
③心細そうに
④一人前に・人並みに
⑤いやだ
⑥かわいらしい様子だ
⑦身の軽さ
B 文法
次の傍線部の助動詞の意味と活用形を答えよ。
①鬼の生み【たり】ければ
②これもおそろしき心あら【む】とて
③秋風吹か【む】折
④折ぞ来【む】とする
⑤つきありく【らむ】よ
⑥ほとめきありき【たる】こそ
⑦憎きもののうちに入れ【つ】べく
⑧憎きもののうちに入れつ【べく】解答を見る
①完了・連用形
②推量・終止形
③婉曲・連体形
④意志・終止形
⑤現在の原因推量・終止形
⑥存続・連体形
⑦強意・終止形
⑧当然・連用形次の傍線部「に」を文法的に説明せよ。
①はかなげ【に】鳴く
②ものの大きさ【に】はあらねど
③ただ歩み【に】歩みありく解答を見る
①形容動詞「はかなげなり」の連用形の活用語尾
②断定の助動詞「なり」の連用形
③強意を表す格助詞次の文から係助詞とその結びの語を抜き出し、結びの語の活用形を答えよ。
①いま秋風吹かむ折ぞ来むとする。
②蠅こそ憎きもののうちに入れつべく、愛敬なきものはあれ。解答を見る
①係助詞=ぞ、結び=する(サ変動詞「す」の連体形)
②係助詞=こそ、結び=あれ(ラ変動詞「あり」の已然形)
C 内容
「鬼の生みたりければ、親に似て、これもおそろしき心あらむ」を、「けれ」の意味に注意して現代語訳せよ。また、「これ」は何を指すか。
解答を見る
訳=鬼が生んだ子だということで、親に似て、この子もきっと恐ろしい心があるだろう。「これ」=みの虫。
「いま秋風吹かむ折ぞ来むとする」を、言葉を補って現代語訳せよ。また、これは誰の、どのようなつもりで言った言葉か。
解答を見る
訳=もうすぐ秋風が吹くころに、(あなたを)迎えに来よう。誰の=みの虫の親の言葉。つもり=また来ると思わせて子をだまし、置き去りにしようというつもり。
「逃げて去にけるも知らず」とは、誰が、どのようなことを知らないのか。
解答を見る
みの虫が、親に捨てられて置き去りにされたことを知らないということ。
みの虫が「ちちよ、ちちよ」と「はかなげに鳴く」のはなぜだと筆者は考えているか。
解答を見る
秋風が吹くころに迎えに来ると親が約束したのに、秋の八月になっても親が来ないので、親を呼んで心細く鳴いていると考えている。
「さる心地に道心おこして、つきありくらむよ」を現代語訳せよ。また、筆者はぬかづき虫のどのような様子を「あはれなり」と言っているか。
解答を見る
訳=あんな小さな虫の心にも仏道を信じる心を起こして、額をついて回っているのだろうよ。様子=虫の身でありながら信心を起こし、仏を拝むように額をつきつつ動き回っていると見える様子。
「蠅こそ憎きもののうちに入れつべく、愛敬なきものはあれ」を現代語訳せよ。また、筆者が蠅をいやだと感じる点を本文から二つ挙げて説明せよ。
解答を見る
訳=蠅こそは、憎らしいものの中にきっと入れるべきもので、(これほど)かわいげのないものはない。点=①秋など、どんなものにでもとまり、ぬれた足で人の顔にとまること。②「蠅」という語が人の名前についていること。
本文で、筆者が肌の感覚(触覚)でとらえたことを書いている部分を十五字程度で抜き出せ。
解答を見る
顔などに濡れ足して居るなどよ
本文の「あはれなり」と「をかし」は、どのように使い分けられているか。ぬかづき虫の例を挙げて説明せよ。
解答を見る
「あはれなり」は、虫の心の中を思いやって心を動かされたときに使い、「をかし」は、虫の動きや様子を目で見ておもしろいと感じたときに使っている。ぬかづき虫でも、信心を起こして額をついて回るのだろうと思いやるところは「あはれなり」、暗い所でことこと音を立てて歩き回る様子は「をかし」と言っている。