『枕草子(まくらのそうし)』「すさまじきもの」①の現代語訳・品詞分解・解説です。
「すさまじ」は、期待や場の雰囲気にそぐわず、興ざめだと感じる気持ちを表す言葉です。この段で作者は、季節はずれのもの、あるはずのものがないもの、期待を裏切られることなどを次々に挙げていきます。①では冒頭の列挙、届かずに戻ってきた手紙、物の怪を退散させられない験者の場面を読みます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。下のボタンで、用言・助動詞・助詞・敬語などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
興ざめなものの列挙
- すさまじ
- 興ざめだ。
- 網代
- 竹や木を編んで川に仕掛け、魚をとる仕掛け。冬に使うもの。
- 紅梅の衣
- 紅梅襲の着物。
犬がほえて番をするのは夜、網代を使うのは冬、紅梅の衣を着るのは冬から春先である。「昼ほゆる犬」「春の網代」「三、四月の紅梅の衣」は、どれも時季や時間に合わないものである。
現代語訳飼っていた牛が死んだ牛飼い。生まれた子を亡くした産室。火の気のない角火鉢やいろり。
- 産屋
- 出産のための部屋。
- 炭櫃
- 角火鉢。
- 地火炉
- いろり。
牛のいない牛飼い、赤ん坊のいない産屋、火のない火鉢といろりは、どれもそこにあるはずのものがないものである。
現代語訳博士が続けざまに女の子ばかり生ませていること。方違えに出かけたのにもてなさない家。まして節分の方違えのときなどは、ひどく興ざめだ。
- 方違へ《かたたがへ》
- 行き先の方角が悪いとき、いったん別の方角の家に泊まり、方角を変えてから目的地へ行うこと。
- あるじす
- 主人としてもてなす。
- まいて
- まして。「まして」のイ音便。
博士は代々家で受け継ぎ、男子しかなれなかったので、女の子ばかり生まれると跡継ぎがいなくなる。期待がくり返し外れてがっかりするのである。
「生ませたる」「あるじせぬ所」は連体形・名詞で止めた形で、「(それは)すさまじ」が省略されている。
方違えの客をもてなすのは当時の習わしで、節分は方違えをするのが決まっていたから、もてなしの用意がないのはなおさら興ざめだ、ということ。
戻ってきた手紙
現代語訳地方から送ってきた手紙で、贈り物が添えていないもの。(こちらが)京から送る手紙も(贈り物がなければ、相手は)そのように(興ざめだと)思っているだろうが、
- 人の国
- 地方。
- おこす
- (こちらへ)よこす。
- 物
- 贈り物。
「さ」は前の「文の物なき」(贈り物のない手紙は興ざめだ)をさす。「京からの手紙でも、贈り物がなければ相手はそう(興ざめだと)思っているだろうが」と訳す。
「こそ〜らめ、」は、こそ〜已然形で文が終わらずに続く逆接の形。
現代語訳しかしそれは、(相手が)知りたいことなども書き集め、都での出来事なども聞けるので、とてもよい。
- ゆかし
- 知りたい。
京からの手紙には、地方にいては知ることのできない都の出来事が書かれているので、贈り物がなくてもよい、ということ。
現代語訳人のもとへ、特に念を入れてきれいに書いて届けさせた手紙の返事を、もうそろそろ(使いが)持って来ているだろうよ、
- わざと
- とりわけ。特別に。
- 清げなり
- きれいだ。
「今は持て来ぬらむかし」の「ぬ」は強意、「らむ」は現在推量で、「もう(返事を)持って来ているだろうよ」と、期待しながら待っている気持ち。
- あやし
- 変だ。
- ありつる
- さきほどの。
「ありつる文」は、さきほどこちらから使いに持たせて送った自分の手紙。
現代語訳立て文でも結び文でも、ひどく汚らしく扱って、紙をけばだたせ、上に引いてあった封じ目の墨なども消えて、
- 立て文
- 手紙の包み方の一つ。
- 結び(文)
- 細く巻いて結んだ手紙。
- ふくだむ
- (紙が)けばだつ。
「上に引きたりつる墨」は、手紙の封じ目に引いた墨のこと。
現代語訳「(先方は)いらっしゃいませんでした。」あるいは「御物忌みだといって受け取りません。」と言って(使いが)持ち帰ってきたのは、ひどく情けなく興ざめだ。
- 物忌み
- 災いを避けるため、一定の間家にこもって身を慎むこと。
- わびし
- やりきれない。情けない。
「おはしまさ」は尊敬語で、手紙を持って行った使者から手紙の相手への敬意(使者の言葉)。
「いとわびしくすさまじ」なのは、特別にきれいに書いて返事を期待していた手紙が、相手に読まれもせず、汚くなって戻ってきたから。
験者の失敗
現代語訳験者が、物の怪を祈りしずめるといって、ひどく得意そうな顔で、(よりましに)独鈷や数珠などを持たせ、
- 験者
- 祈禱によって物の怪をはらう修験者。
- 物の怪
- 人にとりついて病気などを起こす霊。
- 調ず《てうず》
- (祈禱で)物の怪を退散させる。
- したり顔
- 得意げな顔。
- 独鈷
- 仏具の一つ。
独鈷や数珠を持たせた相手は、物の怪を乗り移らせるための者(よりまし)。
「いみじうしたり顔に」からは、物の怪を退散させることに自信を持っている験者の様子が読み取れる。
現代語訳蟬の鳴くような声をしぼり出して座って経を読んでいるが、(物の怪が)少しも退散しそうな様子もなく、護法童子も(よりましに)乗り移らないので、
- よみ居る
- 座って経を読む。
- いささか〜なし
- 少しも〜ない。
- 護法
- 験者に仕える神霊(護法童子)。
「いささかさりげもなく」は、物の怪が少しも退散しそうな様子がないということ。
「つか」の主語は護法。護法童子がよりましに乗り移らないのである。
現代語訳(家の者たちが)集まって座り祈っていると、男も女も変だと思っているうちに、
- 念ず
- 祈る。
「集まり居念じたる」「思ふ」の主語は、祈禱を頼んだ家の者たち。
現代語訳(験者は)決まった時間が過ぎるまで読み疲れて、「まったく乗り移らない。(よりましよ、)立ちなさい。」と言って、数珠を取り返して、
- 困ず《こうず》
- 疲れる。
- さらに〜打消
- まったく〜ない。
「さらにつかず」は「まったく(護法がよりましに)乗り移らない」の意。
「立ちね」は、験者がよりましに向かって言った言葉。「ね」は完了の助動詞「ぬ」の命令形で、「立ちなさい」と強く命じている。うまくいかないいらだちが表れている。
現代語訳「ああ、まったく効き目がないなあ。」と言って、額から上の方へ(髪を)なで上げ、
- あな
- ああ。
- 験
- ききめ。
- さくり上ぐ
- (髪を)なで上げる。
家の者たちの気持ちも考えず、自分が先にあくびをして寝てしまう験者の無神経さが描かれている。
「寄りふしぬる」は連体形で止めた形で、「(こと)はすさまじ」が省略されている。
現代語訳とても眠いと思っているときに、たいして親しいとも思わない人が、揺り起こして、
- ねぶたし
- 眠い。
- いとしも〜打消
- それほど〜ない。
「いとしもおぼえぬ人」は、たいして親しいとも思っていない人。
- せめて
- むりに。しいて。
「こそ〜すさまじけれ」は係り結び。
『枕草子』のほかの章段:春はあけぼの / この草子、目に見え心に思ふことを / 九月ばかり / 雪のいと高う降りたるを / 宮に初めて参りたるころ① / 中納言参りたまひて
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①網代
②炭櫃
③方違へ
④験者
⑤独鈷
⑥数珠解答を見る
①あじろ
②すびつ
③かたたがえ
④げんざ
⑤とこ
⑥ずず次の語句の意味を答えよ。
①すさまじ
②あるじす
③ゆかし
④わざと
⑤ありつる
⑥したり顔
⑦せめて解答を見る
①興ざめだ
②(主人として)もてなす
③知りたい
④とりわけ・特別に
⑤さきほどの
⑥得意げな顔
⑦むりに・しいて
B 文法
次の傍線部「せ」を文法的に説明せよ。
①博士のうち続き女子生ま【せ】たる
②人の国よりおこ【せ】たる文
③独鈷や数珠など持た【せ】解答を見る
①使役の助動詞「す」の連用形
②サ行下二段活用動詞「おこす」の連用形活用語尾
③使役の助動詞「す」の連用形次の傍線部の助動詞の意味を答えよ。
①京のをもさこそ思ふ【らめ】
②今は持て来【ぬ】らむかし
③今は持て来ぬ【らむ】かし
④立ち【ね】解答を見る
①現在推量
②強意
③現在推量
④完了(命令形)
C 内容
冒頭の列挙のうち、①「昼ほゆる犬。春の網代。三、四月の紅梅の衣」、②「牛死にたる牛飼ひ。乳児亡くなりたる産屋。火おこさぬ炭櫃、地火炉」は、それぞれどのような点で興ざめなのか。
解答を見る
①時季や時間に合っていない点。②そこにあるはずのものがない点。
「博士のうち続き女子生ませたる」が興ざめなのはなぜか。
解答を見る
博士は代々家で受け継ぐ職で、男子しかなれなかったので、女の子ばかりだと跡継ぎがいなくなるから。
「京のをもさこそ思ふらめ」を、「さ」の内容を明らかにして現代語訳せよ。
解答を見る
京から送る手紙も、贈り物がなければ興ざめだと(地方の人は)思っているだろうが。
手紙の使いが戻ってきたことを、作者が「いとわびしくすさまじ」と感じたのはなぜか。
解答を見る
特別にきれいに書いて送り、返事を期待していた手紙が、相手に読まれもせず、汚くなって戻ってきたから。
「いささかさりげもなく、護法もつかねば」とはどのような様子か。
解答を見る
物の怪が少しも退散しそうな様子がなく、護法童子もよりましに乗り移らない様子。
「さらにつかず。立ちね。」は、誰が誰に言った言葉か。また、現代語訳せよ。
解答を見る
験者がよりましに言った言葉。訳=まったく(護法が)乗り移らない。立ちなさい。
「いとしもおぼえぬ人の、押し起こしてせめてもの言ふ」を現代語訳せよ。
解答を見る
たいして親しいとも思わない人が、揺り起こしてむりやり話しかけてくる(こと)。