時帝姉湖陽公主新寡。
時に帝の姉 湖陽公主 新たに寡となる。
その時、光武帝の姉である湖陽公主は 夫が亡くなり寡婦となったばかりだった。
寡…夫に先立たれた妻。寡婦。
※「寡」は「少ない」という意味がある。「多寡」:「多いことと少ないこと」という熟語があります。
帝与共論朝臣、微観其意。
帝 与共に朝臣を論じ、微かに其の意を観る。
帝は姉と一緒に家臣たちについて語り合い、ひそかに姉の意中の人物をさぐった。
・与共…「ともニ」
・微…「ひそカニ」。 ※重要な読みです。
・其意…姉湖陽公主の意中。 「其」は 湖陽公主 を指す。
※光武帝は夫を亡くした姉が 新しい夫として誰を望んでいるのかを知ろうと知た。
主曰、「宋公威容徳器、群臣莫及。
主曰はく、「宋公の威容徳器、群臣及ぶ莫し。」と。
公主が言うことには「宋弘の威厳ある容貌と優れた人格は、他の家臣たちが及ぶところがありません。」と。
・威容徳器…威厳ある容貌と優れた人格
・莫…「無」と同じ。 「莫及」で「及ぶものがない、並ぶところがない」
※他の家臣たちが及ばない → 宋弘の容貌と人格が一番よい。
帝曰、「方且図之。」
帝曰はく、「方に且に之を図らんとす。」と。
光武帝が言うことには「それではこれからどうするか考えてみましょう。」と。
・方…「まさニ」それでは。
・且…再読文字「まさニ~ントス」これから~しようとする
・図…考える、計画する。
※「意図」「企図(目的を立て、その実現の手段を計画すること。)」という熟語がありますね。
・且図之…これから、これ(公主と宋公の結婚をすすめること)を考えてみよう。
後、弘被引見。
後、弘 引見せらる。
その後、宋弘は召されて帝に謁見した。
・被~…受身「~らル」~られる。
※受身の句法:「被A」「見A]で「A(せ)らる」と読み、「Aされる」という意味になる。
・引見…呼び出して、会うこと。
→被引見…帝に呼び出されて、謁見させられた。
帝令主坐屏風後、
帝 主をして屏風の後ろに坐せしめ
帝は公主を屏風の後ろに座らせて、
・使役の句法:「令AB」…「AをしてBしむ」と読み、「AにBさせる。」の意味。
ここでは 「A=主」に「B=坐屏風後」させる
※姉に帝と宋弘の会話を、宋弘にばれないよう屏風に隠れて聞かせた。
因謂弘曰、「諺言『貴 易交富易妻。』人情乎。」
因りて弘に謂ひて曰はく、「諺に言ふ、『貴くして交はりを易へ、富みて妻を易ふ。』と。人の情か。」と。
そうして帝が宋弘に言うことには「ことわざで言うことには、『身分が高くなったら交友関係を変え、豊かになったら妻を替える』と。これは人間の当然の心情ではないか。」と言った。
・因…「よリテ」と読む。
・諺…ことわざ
・貴…身分が高い ・富…財産を得る
※「貴富」は漢文でよくセットで使われます。出世して高い身分につき、お金持ちになること。成功したこと。
・易…「かフ」変える ← 「易」には①やさしい ②交換する ③変化する などの意味がある。
・乎…「か」と読んで、疑問の意味になる。
・ 人情乎 …人の当然の感情ではないか。→ お前もそう思わないか?というニュアンス。
※この発言の真意は「お前は、高い身分にまで出世し財産を得たのだから、妻を変えるつもりはないか」ということ。
弘曰、「臣聞、『貧賤之交不可忘。糟糠之妻不下堂。』」
弘曰はく、「臣聞く、『貧賤の交はりは忘るべからず。糟糠の妻は堂より下さず。』」と。
宋弘は言った、「わたくしはこういうことわざを聞いております。『貧しく身分の低い時の交友関係は忘れてはならない。貧乏な生活をともにしてきた妻は座敷から下ろし(家から追い出す=離縁する)てはならない』」と。
・臣…私。君主に対する臣下の自称。
・貧賤之交…貧しく身分の低い時の交友関係。
・不可~…「~べからず」~てはいけない。 ※「~できない」という意味もある。
・糟糠之妻…貧乏な生活をともにしてきた妻。
※糟…さけかす、糠…米ぬか 粗末な食事 → 貧しい生活を意味している。
・下堂…妻を座敷から下ろす。 →家から追い出す、離婚する
※宋弘は帝の問いかけに対し、昔と比べ身分が高くなり財産も得たが、昔からの妻をかえるつもりはない、と答えている。
帝顧謂主曰、「事不諧。」
帝 顧みて主に謂ひて曰はく、「事諧はず。」と。
帝は振り返って屏風の後ろの姉公主に言うには「今回のことは思い通りにいきませんでした。」と。
・顧…振り返る
・事不諧…うまくいかない、思い通りにいかない。