「登高」は9月9日、重陽の節句の行事。家族や親しい人たちとと高い所に登り、宴を開いて厄払いをするという習慣があった。
風急天高猿嘯哀 哀渚清沙白鳥飛廻
風急に天高くして猿嘯哀し
渚清く沙白くして鳥飛び廻る
風は激しく吹き、空は高く澄みわたり、猿の鳴き声が哀しく響きわたる。
長江の水際は清らかで、砂浜は白く、鳥が飛び回っている。
・このとき放浪していた作者杜甫は長江の峡谷の町におり、野生の猿の鳴き声が聞こえていた。
無辺落木蕭蕭下 不尽長江滾滾来
無辺の落木蕭蕭として下り
不尽の長江滾滾として来たる
果てしない落葉樹林は、落ち葉がざわざわと音を立てて散り、
尽きることない長江の、こんこんと湧いては流れてゆく。
万里悲秋常作客 百年多病独登台
万里悲秋常に客と作り
百年多病独り台に登る
故郷を遠く離れて万里、悲しい秋をみながら、私は常に旅人として生きてきた。
生涯病気がちの身体で、たったひとり高台に登る。
・万里…故郷から1万里離れている。
艱難苦恨繁霜鬢 潦倒新停濁酒杯
艱難苦だ恨む繁霜の鬢
潦倒新たに停む濁酒の杯
さまざまな苦痛で、髪の毛が霜が降りたように真っ白になったことがとても恨めしい。
老いてなげやりな私は、濁り酒を飲むことも最近やめたばかりなのだ。
・繁霜鬢…霜が降りたように白くなった鬢
・新停濁酒杯…病気のため、酒を飲むこともやめてしまった。
作者:杜甫
詩の形式:七言律詩
押韻:哀・廻・来・台・杯(初句末+偶数句末)
対句:第一句と第二句(首聯)、第三句と第四句(頷聯)、第五句と第六句(頸聯)、第七句と第八句(尾聯)
※律詩は第三句と第四句(頷聯)・第五句と第六句(頸聯)を対句にするという原則があるが、この詩はすべて対句で成り立っている。
冒頭に書いたように、「登高」は9月9日、重陽の節句の行事。家族や親しい人たちとと高い所に登り、宴を開いて厄払いをするという習慣があった。
しかし、この詩では「独」、つまりたった一人で高台に登っており、酒も病気のために飲んでいない。年老いた孤独な杜甫の姿が浮かんでくる。