『史記』完璧帰趙②「怒髪衝冠」書き下し文・現代語訳・解説|テスト予想問題

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. テストで問われるポイント
  3. テスト予想問題

司馬遷『史記』廉頗藺相如列伝のうち、「完璧帰趙」の中心となる場面、「怒髪衝冠(どはつしょうかん)」の書き下し文・現代語訳・解説です。

秦の宮殿に璧を届けた藺相如は、秦王に城を渡す気がないことを見抜きます。そこで相如は、どうやって璧を取り戻し、どのように秦王に向き合ったのでしょうか。

前の場面は完璧帰趙①、続きは完璧帰趙③です。

書き下し文・現代語訳・解説

本文(訓読文)

白文秦王坐章台見相如、相如奉璧奏秦王。

書き下し秦王章台(しやうだい)に坐(ざ)して、相如を見る。相如璧を奉(ほう)じて秦王に奏(すす)む。

現代語訳秦王は章台という建物に座って、相如を引見した。相如は璧を両手で捧げ持って、秦王に献上した。

章台(しやうだい)
秦の宮殿の名。
奏(さう)す
申し上げる。差し上げる。

白文秦王大喜、伝以示美人及左右。左右皆呼万歳。

書き下し秦王大いに喜び、伝へて以て美人及(およ)び左右(さいう)に示す。左右皆万歳(ばんざい)と呼ぶ。

現代語訳秦王は大いに喜び、(璧を)次々に手渡して、愛妾や側近たちに見せた。側近たちは皆、万歳と叫んだ。

美人
愛妾(あいせふ)。

白文相如視秦王無意償趙城、乃前曰、「璧有瑕、請指示王。」

書き下し相如、秦王の趙に城を償(つぐな)ふに意(い)無きを視(み)て、乃(すなは)ち前(すす)みて曰はく、「璧に瑕(きず)有り。請ふ王に指(さ)し示(しめ)さん。」と。

現代語訳相如は、秦王には趙へ城を引き渡す気がないとわかり、そこで進み出て言った、「璧にはきずがございます。どうか王にお示しいたしましょう。」と。

償(つぐな)ふ
代償として与える。
乃(すなは)ち
そこで。
瑕(きず)
玉の欠点。きず。

白文王授璧。相如因持璧卻立倚柱、怒髪上衝冠。

書き下し王璧を授く。相如因(よ)りて璧を持ち、卻立(きやくりつ)して柱に倚(よ)り、怒髪(どはつ)上りて冠を衝(つ)く。

現代語訳王が璧を相如に手渡すと、相如はそのまま璧を持って、後ずさりして柱に寄りかかって立ち、怒りで髪の毛が逆立って冠を突き上げるほどであった。

因(よ)りて
そこで。それをきっかけに。
卻立(きやくりつ)
後ずさりして立つ。「卻」は「却」と同じで「しりぞく」。
倚(よ)る
もたれかかる。
怒髪(どはつ)上衝冠
怒りのあまり髪の毛が逆立ち、冠を突き上げるほどであること。激しい怒りの形容。

白文謂秦王曰、「大王欲得璧、使人発書至趙王。

書き下し秦王(しんわう)に謂(い)ひて曰はく、「大王璧を得(え)んと欲し、人をして書を発(はつ)して趙王に至らしむ。

現代語訳秦王に向かって言った、「大王は璧を手に入れようとして、人に手紙を持たせて趙王のもとへ届けさせました。

白文趙王悉召群臣議。皆曰、『秦貪、負其彊、以空言求璧、償城恐不可得。』議不欲予秦璧。

書き下し趙王悉(ことごと)く群臣を召して議せしむ。皆曰はく、『秦は貪(たん)にして、其の彊(つよ)きを負(たの)み、空言(くうげん)を以て璧を求む。償城恐らくは得べからざらん。』と。議、秦に璧を予ふるを欲せず。

現代語訳趙王は家臣たちをすべて呼び集めて相談させました。皆が言うには、『秦は欲深く、自分の強さをたのんで、口先だけで璧を求めている。代償の城は、おそらく手に入らないだろう。』と。相談の結果は、秦に璧を渡さないということでした。

貪(たん)
欲が深い。
負(たの)む
たのみにする。
空言(くうげん)
口先だけのでたらめ。

白文臣以為、布衣之交尚不相欺、況大国乎。且以一璧之故逆彊秦之驩、不可。

書き下し臣以為(おもへ)らく、布衣(ふい)の交(まじ)はりすら、尚(な)ほ相(あひ)欺かず。況(いは)んや大国をや。且(か)つ一璧の故(ゆゑ)を以て彊秦(きやうしん)の驩(くわん)に逆ふは、不可なりと。

現代語訳私が思いますに、庶民のつきあいでさえ、お互いにだましたりはしません。まして大国ならなおさらです。そのうえ、たった一つの璧のために、強国である秦の好意にそむくのは、よくありません。

以為(おもへ)らく
思うことには。
布衣(ふい)
庶民。身分のない者。
尚ほA、況(いは)んやBをや
AでさえB。まして~ならなおさらだ。(抑揚(よくやう))
驩(くわん)
よしみ。好意。

白文於是趙王乃斎戒五日、使臣奉璧、拝送書於庭。何者、厳大国之威以修敬也。

書き下し是(ここ)に於(お)いて趙王乃(すなは)ち斎戒(さいかい)すること五日、臣をして璧を奉ぜしめ、書を庭に拝送(はいそう)す。何となれば、大国の威(ゐ)を厳(おそ)れて以て敬を修(をさ)むればなり。

現代語訳そこで趙王は五日間身を清めて慎み、私に璧を捧げ持たせ、手紙を(秦の)宮廷に謹んで届けさせました。なぜなら、大国の威光を恐れて、敬意を表すためです。

斎戒(さいかい)
心身を清め、慎むこと。大事に当たる前に行う。
拝送(はいさう)す
謹んで届ける。
厳(おそ)る
恐れ敬う。
何者(なんとなれば)
なぜなら。理由を述べるときに使う。
修(おさ)む
整える。尽くす。

白文今臣至、大王見臣列観、礼節甚倨。得璧伝之美人、以戯弄臣。

書き下し今臣至るに、大王臣を列観(れつくわん)に見、礼節(れいせつ)甚(はなは)だ倨(おご)れり。璧を得るや之を美人に伝へ、以て臣を戯弄(ぎろう)す。

現代語訳ところが、私が参りますと、大王は正式な宮殿ではなくありふれた建物で私に会われ、その礼儀もたいへん横柄でした。しかも璧を受け取ると愛妾たちに回して、私をからかっておられます。

列観(れつくわん)
ありきたりの(正式でない)建物。「列」は並ぶ、「観」は物見やぐら。
倨(おご)る
おごり高ぶる。
戯弄(ぎろう)す
からかう。もてあそぶ。

白文臣観大王無意償趙王城邑、故臣復取璧。大王必欲急臣、臣頭今与璧倶砕於柱矣。」

書き下し臣、大王の趙王に城邑(じやういふ)を償ふに意無きを観る。故(ゆゑ)に臣復(ま)た璧を取れり。大王必ず臣に急(きふ)にせんと欲せば、臣が頭は今、璧と倶(とも)に柱に砕けん。」と。

現代語訳私は、大王が趙王に城を渡すお気持ちがないことを見抜きました。それで璧を取り返したのです。大王がどうしても私を追いつめようとなさるなら、私の頭はこの場で、璧もろとも柱にぶつかって砕け散りますぞ。」と。

城邑(じやういふ)
城と町。
急(きゆう)にす
追い詰める。強く迫る。
矣(い)
文末の置き字。断定・強調の気持ちを表す。

白文相如持其璧睨柱、欲以撃柱。

書き下し相如其の璧を持ちて柱を睨(にら)み、以て柱に撃(う)たんと欲す。

現代語訳相如はその璧を手にして柱をにらみつけ、(璧を)柱に打ちつけようとした。

テストで問われるポイント

  • 相如が璧を取り戻した方法=「璧に瑕有り」と言って、璧を秦王から受け取った。
  • 相如が秦王に城を渡す気がないと見てとった(「無意償趙城」)。
  • 「怒髪上衝冠」=怒りのあまり髪が逆立ち、冠を突き上げる。
  • 「却立倚柱」=後ずさりして、柱を背にして立つ。
  • 「布衣之交尚不相欺、況大国乎」=庶民のつきあいでさえだまさない、まして大国ならなおさら。(抑揚)
  • 秦王の無礼=ありきたりの建物(列観)で会った。璧を愛妾に回して見せ、使者をからかった。
  • 「欲急臣」の「急」=せまる。
  • 「臣頭今与璧倶砕於柱矣」=私の頭を璧とともに柱で砕く、という脅し。

テスト予想問題

A 語句・読み

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    「卻立」「倚る」「睨む」「戯弄」

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    きゃくりつ・よる・にらむ・ぎろう

  2. 「怒髪上衝冠」とはどのような状態を表しているか。

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    怒りのあまり髪の毛が逆立ち、冠を突き上げるほどである。激しく怒っている様子。

  3. 「欲急臣」の「急」とはどうすることか。

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    せまる。強く迫る。(璧を返すよう迫る、の意。)

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「布衣之交尚不相欺、況大国乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:布衣の交はりすら尚ほ相欺かず、況んや大国をや
    現代語訳:庶民のつきあいでさえ、お互いにだましたりはしない。まして大国ならなおさらである。

  2. 「臣頭今与璧倶砕於柱矣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:臣が頭は今、璧と倶に柱に砕けん
    現代語訳:私の頭は、この場で璧もろとも柱にぶつかって砕け散るでしょう。

  3. 「何者、厳大国之威以修敬也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:何となれば、大国の威を厳れて以て敬を修むればなり
    現代語訳:なぜかというと、大国の威光を恐れ、敬意を表すためである。

C 内容の読み取り

  1. 相如が秦王から璧を取り戻すために言った言葉を、本文から抜き出して書き下し文にせよ。また、その言葉は実際にはどのような意図で言ったものか。

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    「璧有瑕、請指示王」(璧に瑕有り、請ふ王に指し示さん)。意図:璧に本当にきずがあるわけではなく、璧を秦王の手から取り戻すための口実。

  2. 相如が、秦王に城を渡す気がないと判断したのは、秦王のどのような様子を見たからか。

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    璧を受け取って大喜びし、愛妾や側近に回し見せ、側近たちも万歳を叫ぶだけで、約束の十五城のことを話題にもしなかった様子。

  3. 相如は、秦王のどのような態度を無礼だと言っているか。二つ答えよ。

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    ①正式な場ではなく、ありきたりの建物(列観)で使者の自分に会ったこと。②璧を手に入れると、それを愛妾たちに回して見せ、自分をからかったこと。

  4. 趙王が相如を秦への使者に選んだ決め手になった相如の言葉を、本文(前回の場面)から抜き出せ。

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    「城不入、臣請完璧帰趙」。城が手に入らなかった場合は、璧を傷つけずに趙へ持ち帰ると約束した言葉。

  5. 璧を秦に渡すことについて、趙の群臣はどのような意見だったと相如は言っているか。

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    秦は欲が深く、強さをたのんで、空言(実行する気のない約束)で璧を求めている。代償の城はおそらく手に入らないので、璧を渡すべきでないという意見だった。

  6. 相如が柱の近くに立ち、璧を柱に打ちつけようとしたのは、秦王にどのようなことを知らせるためか。

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    もし力ずくで璧を奪おうとするなら、璧を砕いてしまい、自分の命も捨てるという覚悟があること。