『枕草子(まくらのそうし)』の跋文「この草子、目に見え心に思ふことを」の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
跋文(ばつぶん)は、本の終わりに書き添える文章のことです。作者の清少納言が、この草子を書くことになったきっかけ、世間の評判に対する思い、草子が人の目にふれて広まったいきさつを語っています。敬語の向き、係り結び、作者の謙遜した言い方がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
草子が世に漏れ出る
現代語訳この草子は、目に見え心に思うことを、人が見ようとするだろうか、いや見はしないだろうと思って、
- 草子
- 紙をとじた本。
「この草子」は『枕草子』のこと。「目に見え心に思ふ」の主語は作者。
「人やは見むとする」の「やは」は反語で、「人が見ようとするだろうか、いや見はしないだろう」の意。人に読まれることを考えずに書いた、ということ。
現代語訳何もすることがなく退屈な実家暮らしの間に書き集めたものだが、あいにく、
- つれづれなり
- することがなく退屈だ。
- 里居
- 宮仕えをしている人が実家に下がっていること。
- あいなし
- 不本意だ。ここでは「あいにく」の意。「あいなう」は「あいなく」のウ音便。
「書き集めたるを」の「を」は逆接の接続助詞で、「書き集めたのだが」と訳す。
現代語訳人にとって都合の悪い言い過ぎもきっとしてしまっているはずの箇所もあるので、うまく隠しておいたと思っていたのに、
- 便なし《びんなし》
- 都合が悪い。
- 言ひ過ぐし
- 言い過ぎ。
「よう隠しおきたり」としたのは、人にとって都合の悪い言い過ぎをしてしまっている箇所もあるから。
「しつべき」は、強意の「つ」+推量の「べし」で、「きっとしてしまっているにちがいない」の意。
- 心よりほかに
- 思いがけず。自分の意に反して。
「こそ〜けれ」は係り結び。
漏れ出たことへの作者の気持ちは、段落の終わりの「人に見えけむぞ妬き(くやしい)」に表れている。
紙を賜ったいきさつ
- 宮の御前
- 中宮定子。
- 内の大臣
- 内大臣。中宮の兄の藤原伊周。
内の大臣が中宮に献上したのは紙(草子をつくるための紙)。
「奉り」は謙譲語で作者から中宮への敬意、「給へ」は尊敬語で作者から内の大臣への敬意。
現代語訳「これに何を書こうかしら。帝は『史記』という書物をお書きになっている。」
- 上の御前
- 一条天皇。
「書かまし」の「まし」は、疑問の語「何」とともに使われて、「何を書こうかしら」とためらいの気持ちを含む意志を表す。
中宮の言葉の中の「書かせ給へる」は、中宮から一条天皇への敬意。
「なむ〜る」は係り結び(「る」は完了の助動詞「り」の連体形)。
現代語訳などと(中宮様が)おっしゃったので、(私が)「枕でございましょう。」と申し上げたところ、
「のたまはせ」の主語は中宮、「申し」の主語は作者。どちらも作者から中宮への敬意(のたまはす=尊敬語、申す=謙譲語)。
「侍ら」は丁寧語で、会話の聞き手である中宮への作者からの敬意。
「こそ〜め」は係り結び。
現代語訳「それならば、(あなたが)取りなさい。」と言って(私に)お与えになったので、
- さは
- それならば。
「賜はせたりし」は、中宮が作者に紙をお与えになったということ。「賜はす」は尊敬語で、作者から中宮への敬意。
現代語訳つまらないことを、あれこれと、尽きることなくたくさんある紙に書き尽くそうとしたので、
- あやし
- ここでは、つまらない・変だ。
- こよや何や
- あれやこれや。
- 尽きせず
- 尽きることがない。
「あやしきを」は、自分が書いたことを「つまらないこと」とへりくだって言ったもの。
「せしに」の「せ」はサ変動詞「す」の未然形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形。
- ものおぼゆ
- 物事の筋道がわかる。
「いとものおぼえぬことぞ多かるや」は、書いた内容を「わけのわからないことが多い」と謙遜した言い方。
「ぞ〜多かる」は係り結び。
世間の評価への思い
現代語訳そもそもこの草子が、世間でおもしろいとされることや、人がすばらしいと思いそうな名高いものを選び出して、
- めでたし
- すばらしい。
- 選り出づ《えりいづ》
- 選び出す。
「これ」は『枕草子』をさす。
現代語訳歌なども、木・草・鳥・虫のことも書き表したのであったならば、
「言ひ出だしたらば」の「ば」は未然形に付く順接の仮定条件(「もし〜したならば」)。この段落のほかの「ば」(已然形+ば)は確定条件で、ここだけ違う。
現代語訳「思っていたほどではなくよくない。心の底が見えすいている。」と非難されもするだろうが、
- 心見えなり
- 心の底が見えすいている。
- そしる
- 悪く言う。非難する。
「(言ひ出だしたらば)こそ〜そしられめ、」は、こそ〜已然形で文が終わらずに続く逆接の形で、「〜と非難されもするだろうが」と訳す。
「心見えなり」は相手を見下した悪い評価で、あとの「恥づかしき」(ほめ言葉)と対照的。
現代語訳ただ自分の心ひとつで、ひとりでに思い浮かんだことを、遊び半分に書きつけたものなので、
- おのづから
- 自然と。
- 戯れ《たはぶれ》
- 遊び。冗談半分。
世の中で評判になりそうなことを選んで書いたのではなく、自分の心のままに、思い浮かぶことを軽い気持ちで書いたのだ、という作者の執筆の姿勢が述べられている。
現代語訳ほかの書物に肩を並べて、人並みだという評判を聞くことなどできようか、いやできはしないと思っていたのに、
- 人並々なり
- 世間並みだ。
- 耳
- 評判。
「ものかは」は反語で、「聞くことができようか、いやできはしない」の意。
現代語訳「(こちらが気後れするほど)すばらしい。」などと、読んだ人はおっしゃるそうなので、たいそう不思議なことよ。
- 恥づかし
- こちらが気後れするほど立派だ。
「恥づかしき」は、読んだ人が気後れするほど、この草子がすばらしいということ。
「なれ」は伝聞の助動詞「なり」の已然形。作者は直接聞いたのではなく、人づてに聞いている。
「し給ふ」の「し」はサ変動詞「す」の連用形。「思ひしに」の「し」(過去の助動詞「き」の連体形)と区別する。
「ぞ」の結びになるはずの「給ふ」は、下に「なれば」と続くため結びにならない(結びの流れ)。あとの「ぞある」は係り結び。
現代語訳なるほど、それも当然で、人が嫌うものをよいと言い、ほめるものを悪いと言う人は、
- げに
- なるほど。
- 理
- 道理。当然であること。
「そ」は、読んだ人がこの草子をすばらしいとほめることをさす。
人が嫌うものをよいと言い、ほめるものを悪いと言う人(自分の草子をほめる人)は、その人の心のほどが知れる、だからほめられるのも当然だ、と自分の草子を謙遜している。
現代語訳その心のほどが自然と推しはかられるものだ。ただ、(この草子が)人に見られてしまったらしいことがくやしい。
- 妬し《ねたし》
- くやしい。しゃくだ。
「こそ〜るれ」は係り結び(「るれ」は自発の助動詞「る」の已然形)。
「人に見えけむぞ妬き」とくやしがるのは、第一段落にあるように、人にとって都合の悪い言い過ぎもあり、人に見せるつもりがなかったから。
草子が広まったきっかけ
現代語訳左中将(源経房)が、まだ伊勢守と申し上げていたころ、(私の)実家にいらっしゃったときに、
- 左中将
- 源経房。
- 里
- (作者の)実家。
「聞こえ」は謙譲語(申し上げる)、「おはし」は尊敬語。どちらも作者から左中将への敬意。
現代語訳部屋の端のほうにあった畳を差し出したら、その上にこの草子が載っていて、いっしょに出ていってしまったのだった。
- 端
- 部屋の端のほう。
- 畳
- 敷物。
「なり」は存在の助動詞で、「端の方にあった」の意。
畳を差し出したら、その上にこの草子が載っていて、いっしょに外に出てしまった。
現代語訳あわてて取り入れたけれども、左中将はそのまま持ってお帰りになり、かなり長い時がたってから(草子は)手もとに戻ってきたのだった。
- 惑ふ
- あわてる。
- やがて
- そのまま。
「持て」は「持ちて」のこと。「持ておはして」の主語は左中将、「返りたりし」の主語は草子。
「ぞ〜し」は係り結び。
現代語訳そのときから(この草子は)世の中に出回りはじめたようだ、ともとの本には(書いてある)。
- ありく
- あちこち動き回る。ここでは、(草子が)人の手から手へ渡って広まる。
「なめり」は、断定の助動詞「なり」の連体形「なる」が撥音便で「なん」となり、「ん」が表記されない形に、「めり」が付いたもの。「〜であるようだ」と訳す。
「ありきそめたるなめり」は、草子が作者の知らないところで一人歩きするように世に広まりはじめたらしい、ということ。
「とぞ本に」の下には「ある」などの結びが省略されている。
『枕草子』のほかの章段:春はあけぼの / すさまじきもの① / 九月ばかり / 雪のいと高う降りたるを / 宮に初めて参りたるころ① / 中納言参りたまひて
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①里居
②便なき
③内の大臣
④理
⑤妬き解答を見る
①さとい
②びんなき
③うちのおとど
④ことわり
⑤ねたき次の語の意味を答えよ。
①あいなう
②おのづから
③戯れに
④恥づかしき
⑤やがて解答を見る
①あいにく・不本意にも
②自然と
③冗談半分に・軽い気持ちで
④(こちらが気後れするほど)すばらしい
⑤そのまま
B 文法
次の【 】の係助詞について、結びとなっている語とその活用形を答えよ。
①人【やは】見むとすると思ひて
②心よりほかに【こそ】漏り出でにけれ
③『史記』といふ書を【なむ】書かせ給へる
④心のほど【こそ】推しはからるれ解答を見る
①する・連体形
②けれ・已然形
③る・連体形
④るれ・已然形次の傍線部の助動詞の意味を答えよ。
①何を書か【まし】
②便なき言ひ過ぐしもし【つ】【べき】所々
③見る人はし給ふ【なれ】ば
④心のほどこそ推しはから【るれ】
⑤人に見え【けむ】ぞ妬き解答を見る
①ためらいの意志
②つ=強意、べき=推量
③伝聞
④自発
⑤過去推量次の傍線部「し」を文法的に説明せよ。
①聞くべきものかはと思ひ【し】に
②見る人は【し】給ふなれば解答を見る
①過去の助動詞「き」の連体形
②サ行変格活用動詞「す」の連用形次の傍線部の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを答えよ。
①内の大臣の【奉り】給へりけるを
②内の大臣の奉り【給へ】りけるを
③などの【たまはせ】しを
④枕にこそは【侍ら】め
⑤伊勢守と【聞こえ】し時解答を見る
①謙譲語・作者から中宮へ
②尊敬語・作者から内の大臣へ
③尊敬語・作者から中宮へ
④丁寧語・作者から中宮へ
⑤謙譲語・作者から左中将へ
C 内容
「人やは見むとする」を現代語訳せよ。
解答を見る
人が見ようとするだろうか、いや見はしないだろう。
作者が草子を「よう隠しおきたり」としたのはなぜか。
解答を見る
人にとって都合の悪い言い過ぎをしてしまっている箇所もあったから。
「賜はせたりし」とあるが、誰が誰に何を与えたのか。
解答を見る
中宮定子が、作者(清少納言)に、内の大臣から献上された紙を与えた。
「心見えなり」の意味を答えよ。また、この語と反対の評価を示す語を本文から抜き出せ。
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意味=心の底が見えすいている。対照的な語=恥づかしき
「げに、そも理」の「そ」がさす内容を答えよ。また、作者がそれを「理」(当然だ)と考えたのはなぜか。
解答を見る
「そ」=この草子を読んだ人がすばらしいとほめること。理由=人が嫌うものをよいと言い、ほめるものを悪いと言うような人なら、その心のほどが知れるというものだから(作者の謙遜)。
「ただ、人に見えけむぞ妬き」とあるが、作者がくやしく思うのはなぜか。
解答を見る
人にとって都合の悪い言い過ぎもあり、人に見せるつもりもなく隠しておいた草子を、人に見られてしまったから。
この草子が世に広まったいきさつを説明せよ。
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左中将が作者の実家に来たとき、差し出した畳の上にこの草子が載って出てしまい、左中将がそのまま持って行って長い間返さなかった。そのころから草子が世に広まりはじめたらしい。