『枕草子(まくらのそうし)』「すさまじきもの」②の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
前の場面:『枕草子』すさまじきもの①
②は「除目に司得ぬ人の家」の場面です。今年こそ国司に任命されると聞いて集まった人々が、知らせがいっこうに来ないまま夜を明かし、失望していく様子が描かれます。人々のふるまいの理由や、遠回しな答え方、敬語の向きがよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
任官を期待して集まる人々
現代語訳除目で官職を得られなかった人の家(は興ざめだ)。今年はきっと(任官する)と聞いて、
- 除目
- 官職を任命する行事。
- 司
- 官職。ここでは国司。
「除目に司得ぬ人の家」も「すさまじきもの」の一つ。下に「(は)すさまじ」が省略されている。
「今年は必ず」のあとには、「(司を)得む」などが省略されている。「今年はきっと任官するだろう」ということ。
現代語訳以前(この家に)仕えていた者たちで、よそに散らばっていた者や、田舎めいた所に住む者たちなどが、みな集まって来て、
- はやう
- 以前。
- ほかほかなり
- 離ればなれだ。
- 田舎だつ
- 田舎めく。
「はやうありし者どもの、ほかほかなりつる」の「の」は同格で、「以前(この家に)仕えていた者たちで、よそに離れていた者たち」と訳す。
人々が集まって来たのは、主人が国司になればその恩恵にあずかれると考えたから。
現代語訳出入りする牛車の轅もすきまなく見え、(主人が任官を願って)寺社に参詣するお供にも、我も我もと参上してお仕え申し上げ、
- 轅
- 牛車の部分の名。牛車の数の多さを表している。
- ひまなし
- すきまがない。
- 物詣で
- 寺や神社に参詣すること。ここでは任官を祈るための参詣。
「参り」は作者から(参詣先の)寺社への敬意、「仕うまつり」は作者から主人(司得ぬ人)への敬意。どちらも謙譲語。
現代語訳物を食べ酒を飲んで、大声で騒ぎ合っているのに、除目の終わる夜明け前になっても、門をたたく(使いの)音もしない。
- ののしる
- 大声で騒ぐ。
- 暁
- 夜明け前。
「果つる」のは除目。
「門たたく音もせず」は、任官したという知らせを伝えに来る者がいない、つまり主人が官職を得られなかったことを表している。
知らせの来ない夜明け
現代語訳おかしいなと耳を澄ましていると、先払いの声があちこちでして、上達部たちはみな(宮中を)退出なさってしまった。
- 前駆
- 身分の高い人が通るとき、先に立って人を追い払うこと(先払い)。
- 上達部
- 身分の高い貴族たち。
「給ひ」は作者から上達部への敬意(尊敬語)。
上達部がみな宮中から退出したということは、除目が終わったということ。
現代語訳結果を聞きに前夜から出向き、寒さにがたがた震えていた下男が、ひどく気の重そうな様子で歩いて来るのを、
- わななく
- 震える。
- 下衆
- 身分の低い者。
- もの憂げなり
- 憂鬱そうだ。
下男が憂鬱そうに歩いて来るのは、主人が任官できなかったことを知り、落胆を隠せないから。
- え〜打消
- 〜できない。
- だに
- 〜さえ。
「え問ひだにも問はず」は、(除目の結果を)尋ねることさえできないということ。帰ってきた下男の沈んだ様子を見れば、任官できなかったことは聞かなくても明らかだったからである。
現代語訳よそから来た(事情を知らない)者などが、「ご主人は何におなりになったのか。」などと尋ねると、
「ほかより来たる者」は、よそから来て事情をよく知らない者。
「せ給ひ」はほかより来たる者から主人(司得ぬ人)への敬意(尊敬語)。
「何にか〜たる」は係り結び。「ぞ」の結びになるはずの「問ふ」は、下に「に」と続くため結びにならない(結びの流れ)。
現代語訳返事には、「どこそこの前の国司に(おなりになりました)。」などと必ず答える。
- いらへ
- 返事。
- 前司
- 前の国司。
- いらふ
- 答える。
「何の前司にこそは」は、「どこそこの前の国司(になられました)」と答えたもの。今回は任命されなかったことをはっきり言いにくいので、前の官職を言って遠回しに答えている。「こそは」の下の結びは省略されている。
「ぞ〜いらふる」は係り結び。
- まことに
- 心から。本当に。
- 嘆かし
- 嘆かわしい。
「まことに」は「頼みける」にかかる。主人の任官を本気であてにしていた者ほど落胆している。
去っていく者と残る者
現代語訳翌朝になって、すきまもないほどいた者たちが、一人二人とこっそり抜け出して去っていく。
- つとめて
- 翌朝。早朝。
- すべり出づ
- こっそり抜け出る。
- 去ぬ《いぬ》
- 去る。ナ行変格活用。
一人二人と抜け出して去るのは、主人が任官されず、気まずくなって目立たないように出ていくから。
現代語訳古くから仕えている者で、そのように離れていくこともできそうにない者は、来年(国司が交替する)国々を、指を折って数えたりして、
- まじ
- ここでは不可能「〜できそうにない」。
「古き者どもの」の「の」は同格で、「古くから仕えている者で、そのように離れていくこともできそうにない者」と訳す。
「さ」は前の「すべり出でて去ぬ」をさす。
古くからの者が離れられないのは、長くこの家に仕えてきて、すぐに見捨てることもできないから。
「来年の国々」は、来年国司が交替する国々。来年の除目に望みをかけて、指折り数えているのである。
- ゆるぎありく
- ゆったりと歩き回る。
来年に望みをつないで、落胆を隠して歩き回る古くからの者たちの様子を「いとをかし」(たいそうおかしい)と言い、同時に「すさまじげなり」(いかにも興ざめだ)と結んでいる。
『枕草子』のほかの章段:春はあけぼの / この草子、目に見え心に思ふことを / 九月ばかり / 雪のいと高う降りたるを / 宮に初めて参りたるころ① / 中納言参りたまひて
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①除目
②轅
③前駆
④上達部
⑤前司
⑥去ぬ解答を見る
①じもく
②ながえ
③さき
④かんだちめ
⑤ぜんじ
⑥いぬ次の語句の意味を答えよ。
①ほかほかなり
②ののしる
③わななく
④いらへ
⑤つとめて解答を見る
①離ればなれだ
②大声で騒ぐ
③震える
④返事
⑤翌朝・早朝
B 文法
次の傍線部「の」の用法を答えよ。
①除目に司得ぬ人【の】家
②はやうありし者ども【の】、ほかほかなりつる
③古き者ども【の】さもえ行き離るまじきは解答を見る
①連体修飾格
②同格
③同格次の傍線部「せ」を文法的に説明せよ。
①門たたく音も【せ】ず
②殿は何にかなら【せ】給ひたる解答を見る
①サ行変格活用動詞「す」の未然形
②尊敬の助動詞「す」の連用形次の傍線部の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを答えよ。
①我も我もと参り【仕うまつり】
②上達部などみな出で【給ひ】ぬ
③殿は何にかならせ【給ひ】たる解答を見る
①謙譲語・作者から主人(司得ぬ人)へ
②尊敬語・作者から上達部へ
③尊敬語・ほかより来たる者から主人(司得ぬ人)へ
C 内容
「今年は必ず」の下には言葉が省かれている。補って訳せ。
解答を見る
今年はきっと官職を得る(任官する)だろう。
以前仕えていた者や田舎に住む者たちまでが集まって来たのはなぜか。
解答を見る
主人が国司に任命されれば多くの収入が期待でき、その恩恵にあずかろうと考えたから。
「果つる暁まで門たたく音もせず」とあるが、何が「果つる」のか。また、「門たたく音もせず」はどのようなことを表しているか。
解答を見る
除目。主人が任官したという知らせを伝えに来る者がいない、つまり主人が官職を得られなかったこと。
「え問ひだにも問はず」を、何を問うのかを補って現代語訳せよ。また、そうなったのはなぜか。
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訳=除目の結果を尋ねることさえもできない。理由=下男が沈みきった様子で帰ってきたので、任官できなかったことが聞くまでもなく明らかだったから。
「何の前司にこそは」と答えたのはなぜか。
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主人が今回任命されなかったことをはっきり言いにくいので、前の官職を言って遠回しに答えたから。
①人々が「一人二人すべり出でて去ぬ」のはなぜか。②「古き者ども」が「さもえ行き離るまじき」なのはなぜか。
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①主人が任官されず気まずくなり、目立たないようにその場を抜け出そうとしたから。②長くこの家に仕えてきたので、すぐにあきらめて見捨てることもできないから。