『源氏物語(げんじものがたり)』薄雲(うすぐも)の巻、「明石の君の苦悩(あかしのきみのくのう)」の場面の後半、「姫君は、何心もなく」から「いかに罪や得らむと思す」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です(全2回の②)。明石の君の苦悩①の続きです。
いよいよ母と娘の別れの時です。何も知らない姫君は、母も一緒に車に乗るものと思って袖を引きます。明石の君と光源氏が歌を詠み交わし、姫君は二条院へ向かいます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
母の袖を引く姫君
現代語訳姫君は、何の事情もわからずに、お車に乗ることをお急ぎになる。
- 何心もなし
- 何の考えもない。無邪気だ。
何心もなく車に乗りたがる幼い姫君の様子が、別れを悲しむ母の気持ちと対照的に描かれている。
現代語訳(車を)寄せてある所に、母君(明石の君)が自分で(姫君を)抱いて出ていらっしゃった。
「出で給へり」の主語は明石の君。姫君を自分で抱いて、車のところまで出てきた。
現代語訳片言で、声はとてもかわいらしく、(母君の)袖をつかんで、「(お母さまも)お乗りなさい。」と引っぱるのも、(明石の君には)ひどく悲しく思われて、
- 片言
- 幼児の、たどたどしい言葉。
- うつくし
- かわいらしい。
- いみじ
- (ここでは)ひどく悲しい。
「乗り給へ」は、姫君が母(明石の君)に言った言葉。別れることを知らない姫君は、母も一緒に車に乗るものと思っている。
現代語訳行く末の長い二葉の松(幼い姫君)に別れて、いつになったら、高く育った松の姿(成長した姫君)を見ることができるのでしょうか。
明石の君の歌。「二葉の松」は、芽を出したばかりの松で、幼い姫君のたとえ。「木高きかげ」は、高く育った松の姿で、成長した姫君の姿のたとえ。
「いつか」の「か」の結びは、「べし」の連体形「べき」。
現代語訳(明石の君が)最後まで言いきれずにひどく泣くので、(光源氏は)もっともだ、ああつらいことだとお思いになって、
- 言ひやる
- 最後まで言う。
「え〜ず」は不可能(〜できない)。明石の君は泣いて、歌を最後まで言いきることができない。
「さりや、あな苦し」は光源氏の思い。明石の君が悲しむのももっともだ、ああつらいことだ、と思っている。
現代語訳「生えはじめた根も深い(姫君が生まれた二人の縁も深い)のだから、武隈の相生の松のように、小松(姫君)の千年の行く末を並んで見守ろう。
- 生ひそむ
- 生えはじめる。
- 千代
- 千年。長い年月。
光源氏の返歌。「根」は二人が結ばれた宿縁、「武隈の松」は光源氏と明石の君、「小松」は姫君のたとえ。武隈の松は、二本の松が並んで生える相生の松として知られた歌枕。
二人で姫君の長い将来を見守ろう、いつか一緒に暮らせるだろう、と明石の君を慰めている。
現代語訳のんびりと構えて(待って)いてください。」と慰めなさる。
- のどかなり
- のんびりしている。気長だ。
現代語訳(明石の君は)そのとおり(いつかまた姫君と暮らせる)だと気持ちを静めようとするけれど、どうしてもこらえきれなかった。
「さること」は、光源氏の歌にあるように、いつかまた母と娘がともに暮らせる日が来るということ。
「えなむ堪へざりける」は、(悲しみを)とてもこらえることができなかった、ということ。「なむ」の結びは「けり」の連体形「ける」。
二条院へ向かう姫君
現代語訳乳母と、少将という上品な女房だけが、守り刀や天児のような物を持って(車に)乗る。
- あてやかなり
- 上品だ。
- 御佩刀
- (姫君の)守り刀。
- 天児
- 幼児の魔よけの人形。
現代語訳お供の車には、見た目の悪くない若い女房や召し使いの少女を乗せ、(姫君を)送らせるために参上させる。
- 副車
- お供の者が乗る車。
- よろし
- 悪くない。見苦しくない。
- 若人
- 若い女房。
- 童
- 召し使いの少女。
「御送りに参らす」は、明石の君が、若い女房や童を姫君のお見送りに参上させるということ。
現代語訳(光源氏は)帰る道すがら、あとに残った人(明石の君)のつらさを思って、自分はどれほど罪をつくっていることだろうとお思いになる。
- 道すがら
- 道の途中。
- 心苦しさ
- つらさ。気の毒さ。
「とまりつる人」は、大堰にあとに残った人、つまり明石の君。
「いかに罪や得らむ」と思うのは光源氏。母と幼い娘を引き離して、明石の君を苦しめている自分は、どれほど罪をつくっているのだろうか、と思っている。
前の場面:明石の君の苦悩①
源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 若紫①「北山の垣間見」 須磨① 明石の姫君の入内① 若菜上① 御法①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①姫君
②片言
③二葉
④武隈
⑤少将
⑥御佩刀
⑦天児
⑧副車
⑨若人
⑩童解答を見る
①ひめぎみ
②かたこと
③ふたば
④たけくま
⑤しょうしょう
⑥みはかし
⑦あまがつ
⑧ひとだまい
⑨わかうど
⑩わらわ本文で使われている次の語の意味を書け。
①何心もなし
②うつくし
③のどかなり
④あてやかなり
⑤よろし
⑥道すがら
⑦心苦しさ解答を見る
①何の考えもない・無邪気だ
②かわいらしい
③気長だ・のんびりしている
④上品だ
⑤悪くない・見苦しくない
⑥道の途中
⑦つらさ・気の毒さ
B 文法・敬語
次の助動詞の意味を答えよ。
①御車に乗らむこと(む)
②いつか木高きかげを見るべき(べき)
③千代を並べむ(む)
④えなむ堪へざりける(ける)
⑤御送りに参らす(す)
⑥罪や得らむ(らむ)解答を見る
①婉曲
②可能
③意志
④過去
⑤使役
⑥現在推量次の傍線部の敬語の種類と、だれへの敬意かを答えよ。
①急ぎ給ふ(給ふ)
②抱きて出で給へり(給へ)
③「乗り給へ。」(給へ)
④あな苦しと思して(思し)解答を見る
①尊敬語・明石の姫君
②尊敬語・明石の君
③尊敬語・明石の君
④尊敬語・光源氏
C 現代語訳・内容
「乗り給へ」は、①だれが、
②だれに言った言葉か。
③そう言ったのはなぜか。解答を見る
①明石の姫君
②明石の君(母)
③母と別れることを知らず、母も一緒に車に乗るものと思っていたから。「末遠き二葉の松に引き別れいつか木高きかげを見るべき」について、①「二葉の松」
②「木高きかげ」はそれぞれ何のたとえか。
③歌全体を現代語訳せよ。解答を見る
①幼い姫君
②成長した姫君の姿
③行く末の長い二葉の松(幼い姫君)に別れて、いつになったら高く育った松の姿(成長した姫君)を見ることができるのでしょうか。「えも言ひやらずいみじう泣けば、さりや、あな苦しと思して」を、主語を補って現代語訳せよ。
解答を見る
(明石の君が)最後まで言いきることができずにひどく泣くので、(光源氏は)もっともだ、ああつらいことだとお思いになって。
「生ひそめし根も深ければ武隈の松に小松の千代を並べむ」の歌で、①「武隈の松」
②「小松」はそれぞれだれのたとえか。
③光源氏はこの歌で、どのように明石の君を慰めているのか。解答を見る
①光源氏と明石の君
②明石の姫君
③二人の縁は深いのだから、二人で姫君の長い将来を見守ろう、いつかまた一緒に暮らせるだろうと慰めている。「さることとは思ひ静むれど、えなむ堪へざりける」について、①「さること」とはどのようなことか。
②現代語訳せよ。解答を見る
①いつかまた母(明石の君)と姫君がともに暮らせる日が来るということ。
②そのとおりだと気持ちを静めようとするけれど、とてもこらえることができなかった。「とまりつる人の心苦しさを、いかに罪や得らむと思す」について、①「とまりつる人」とはだれか。
②「いかに罪や得らむ」と思ったのはだれで、なぜそう思ったのか。解答を見る
①明石の君
②光源氏。母と幼い娘を引き離し、明石の君をひどく苦しめたことを思ったから。