『源氏物語』葵(物の怪)② 現代語訳・品詞分解・敬語・解説|テスト予想問題付き

目次
  1. 原文の読み方
  2. 現代語訳・品詞分解・解説
  3. 葵の上を慰める光源氏
  4. 物の怪の正体
  5. テスト予想問題

『源氏物語(げんじものがたり)』葵(あおい)の巻、「葵の上に取り憑く物の怪」の場面の後半、「あまりいたう泣きたまへば」から「かたはらいたうおぼさる」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です(全2回の②)。

泣き続ける葵の上を、光源氏は「来世でもまた会える」と慰めます。ところが、葵の上の口から出てきたのは、祈祷をゆるめてほしいという言葉と一首の歌。その声も様子も、六条の御息所そのものでした。

原文の読み方

原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。

表示:

現代語訳・品詞分解・解説

葵の上を慰める光源氏

原文
あまり副いたうク連用・音泣きカ四連用たまへ補・ハ四已然尊→葵の上ば接助順接確定、「心苦しきシク連体親おやたちの格助体修御おほんことを格助対象おぼしサ四連用尊→葵の上、

現代語訳(葵の上が)あまりにひどくお泣きになるので、(光源氏は)「(残される)気の毒な両親のことをお思いになり、

いたし
ひどい。(連用形で)ひどく。
心苦し
気の毒だ。
解説

「泣きたまへ」の主語は葵の上。

「心苦しき親たちの」から「おぼえたまふにや」までが、光源氏の心の中の思い。葵の上がひどく泣く理由を推し量っている。

原文
また接かく副見マ上一連用たまふ補・ハ四連体尊→葵の上に格助対象つけカ下二連用て接助単純接続口惜くちをしうシク連用・音おぼえヤ下二連用たまふ補・ハ四連体尊→葵の上に断定連用や係助疑問。」と格助引用おぼしサ四連用尊→光源氏て接助単純接続、

現代語訳また、こうして(私を)ご覧になるにつけても、(別れるのが)残念にお思いになるのだろうか」とお思いになって、

口惜し
残念だ。
解説

「見たまふ」は、葵の上が光源氏を見る。「おぼし」「たまふ」は、光源氏から葵の上への敬意。

光源氏は、葵の上が、残される両親を思い、夫の自分と別れるのを残念に思って泣いているのだと考えている。

原文
「何なにごとも係助強意いと副かう副な副おぼし入れラ下二連用尊→葵の上そ終助禁止。さりとも接けしうシク連用・音は係助強意おはせ補・サ変未然尊→葵の上じ打消推量終止。

現代語訳「何事も、それほどまで深く思いつめなさいますな。いくらなんでも、悪いことにはなりなさらないでしょう。

な〜そ
〜するな(禁止)。
さりとも
いくらなんでも。
けし
(容態などが)悪い。
解説

「けしうはおはせじ」は、命にかかわるようなことにはならないでしょう、という慰めの言葉。

原文
いかなりナリ終止とも接助順接仮定必ず副逢ふハ四連体瀬せあラ変連体・音なれ伝聞已然ば接助順接確定、対面たいめんは係助提示ありラ変連用な強意未然む推量終止。

現代語訳たとえどうなっても、(夫婦は来世で)必ず逢う機会があるということだから、きっとお会いできるでしょう。

いかなりとも
たとえどうなっても。(万一死に別れても)
逢ふ瀬
会う機会。
対面
会うこと。
解説

「あなれ」は、ラ変動詞「あり」の連体形「ある」が撥音便「あん」になり、「ん」が表記されない形に、伝聞の助動詞「なり」の已然形が付いたもの。

「ありなむ」の「なむ」は、強意の「ぬ」(未然形「な」)に推量の「む」が付いた形で、「きっと〜だろう」と訳す。

原文
大臣おとど、宮みやなど副助例示も係助添加、深きク連体契ちぎりあるラ変連体仲なかは係助提示、めぐりラ四連用て接助単純接続も係助強意絶えヤ下二未然ざ打消連体・音なれ伝聞已然ば接助順接確定、あひ見るマ上一連体ほどありラ変連用な強意未然む推量終止と格助引用おぼせサ四命令尊→葵の上。」と格助引用慰めマ下二連用たまふ補・ハ四連体尊→光源氏に接助単純接続、

現代語訳左大臣や大宮とも、深い因縁のある間柄は、生まれ変わっても縁が切れないということだから、また会える時がきっとあるだろうとお思いなさい」とお慰めになると、

大臣、宮
葵の上の父の左大臣と、母の大宮。
契り
前世からの因縁。
めぐる
(ここでは)生まれ変わる。
あひ見る
会う。
解説

「絶えざなれ」の「ざなれ」は、「ざるなれ」が「ざんなれ」と変化し、「ん」を書かないもの。「なれ」は伝聞の「なり」の已然形。

親子のように前世からの因縁で結ばれた者どうしは、何度生まれ変わってもつながりが続くのだから、左大臣や大宮ともまた会えると考えなさい、と慰めている。

物の怪の正体

原文
「いで感、あらラ変未然ず打消終止や間助詠嘆。身の上みのうへの格助主格いと副苦しきシク連体を接助順接確定、しばし副やすめマ下二連用たまへ補・ハ四命令尊→光源氏と格助引用聞こえヤ下二未然謙→光源氏む意志終止と格助引用て接助原因なむ係助強意。

現代語訳「いいえ、そうではないのです。この身がひどく苦しいので、しばらく(祈祷を)ゆるめてくださいと申し上げようと思いまして。

いで
いや。いえ。
解説

「いで、あらずや」から、葵の上の口を借りた物の怪の言葉になる。

「あらずや」は、光源氏の慰めの言葉を打ち消している。泣いているのは、死に別れるのが悲しいからではなく、祈祷で調伏されるのが苦しいからだということ。

「しばしやすめたまへ」は、しばらく加持祈祷をゆるめてほしい、ということ。

「聞こえむとてなむ」の「なむ」は強意の係助詞。結びの語が省略されている。

原文
かく副参り来まゐりこカ変未然謙→光源氏む意志終止と格助引用も係助強意さらに副思はハ四未然ぬ打消連体を接助逆接確定、もの思ふハ四連体人の格助体修魂たましひは係助提示げに副あくがるるラ下二連体ものに断定連用なむ係助強意あり補・ラ変連用ける詠嘆連体。」と格助引用なつかしげにナリ連用言ひハ四連用て接助単純接続、

現代語訳このように(ここへ)参上しようとはまったく思わないのに、もの思いをする人の魂は、本当に体から抜け出してさまようものだったのですね」と、親しげに言って、

あくがる
(魂が)体から離れてさまよう。
なつかしげなり
親しげだ。
解説

「かく参り来むともさらに思はぬを」は、葵の上を苦しめようと思って来たのではない、ということ。

「げに」は、もの思いをする人の魂は体から抜け出すと言われているが、そのとおりだ、ということ。

「ものになむありける」の「なむ」は強意の係助詞で、結びは「ける」(連体形)。

原文
「なげきわびバ上二連用空そらに格助場所乱るるラ下二連体わが魂たまを格助対象結びとどめよマ下二命令下交したがひの格助体修つま」

現代語訳嘆き苦しんで(体を抜け出し)空に迷っている私の魂を、結びとどめてください、下前の褄を結んで。

なげきわぶ
嘆き悲しむ。
下交ひのつま
着物の前を合わせたとき、内側になる部分(下前)の端。ここを結ぶと、さまよい出た魂が体にとどまるという言い伝えがあった。
解説

「結びとどめよ」(命令形)で切れる四句切れ。後半と順序を入れかえた倒置で、名詞の「つま」で終わる体言止めになっている。

詠んだのは六条の御息所(の生霊)。もの思いのあまり体を抜け出してしまった魂を、もとに戻してほしいと訴えている。

原文
と格助引用のたまふハ四連体尊→葵の上声こゑ、けはひ、その人に断定連用も係助強意あら補・ラ変未然ず打消連用変はりラ四連用たまへ補・ハ四已然尊→葵の上り存続終止。

現代語訳とおっしゃる声も気配も、葵の上本人のものではなく、すっかり別人のように変わっていらっしゃる。

けはひ
様子。雰囲気。
解説

「その人」は葵の上。声も様子も、葵の上とはまるで違ってしまった。

原文
いと副あやしシク終止と格助引用おぼしめぐらすサ四連体尊→光源氏に接助単純接続、ただ副かの御息所みやすどころなり断定連用けり詠嘆終止。

現代語訳(光源氏が)たいそう不思議だとあれこれ考えをめぐらしなさると、まさしくあの御息所であった。

あやし
不思議だ。
おぼしめぐらす
あれこれ考えをめぐらしなさる。
解説

「なりけり」の「けり」は、それと初めて気づいたことを表す詠嘆の用法。物の怪の正体は六条の御息所だったのである。

原文
あさましうシク連用・音、人の格助主格とかく副言ふハ四連体を格助対象、よからク未然ぬ打消連体者ものどもの格助主格言ひ出づるダ下二連体ことと格助引用聞きにくくク連用おぼしサ四連用尊→光源氏て接助単純接続のたまひ消けつタ四連体尊→光源氏を接助逆接確定、

現代語訳あきれたことに、(これまでは)人々があれこれうわさするのを、よくない者たちが言い出すことだと聞き苦しくお思いになって打ち消していらっしゃったのに、

あさまし
あきれるほどだ。
とかく
あれこれと。
のたまひ消つ
(口に出して)打ち消しなさる。
解説

「人のとかく言ふ」は、葵の上に取り憑いている物の怪は六条の御息所の生霊だという世間のうわさ。光源氏はそれを、よくない者たちが言い出したことだと打ち消していた。

原文
目めに格助対象見す見みすみす、世よに格助場所は係助強意かかるラ変連体ことこそ係助強意は係助強意ありラ変連用けれ詠嘆已然と格助引用、うとましうシク連用・音なりラ四連用ぬ完了終止。

現代語訳目の前に見て、世の中にはこのようなこともあるのだったよと、いやな気持ちになった。

見す見す
目の前に見ながら。
うとまし
いやだ。気味が悪い。
解説

「ありけれ」の「けれ」も、初めて気づいたことを表す詠嘆の用法で、「こそ」の結び(已然形)。うわさは本当だったのだと、目の前で知ったのである。

原文
あな感心憂こころうク語幹と格助引用おぼさサ四未然尊→光源氏れ自発連用て接助単純接続、「かく副のたまへハ四已然尊→物の怪ど接助逆接確定、誰たれと格助引用こそ係助強意知らラ四未然ね打消已然。確かにナリ連用のたまへハ四命令尊→物の怪。」と格助引用のたまへハ四已然尊→光源氏ば接助単純接続、

現代語訳ああいやだと(光源氏は)お思いになって、「そのようにおっしゃるけれど、誰なのかわからない。はっきりおっしゃい」とおっしゃると、

あな心憂
ああいやだ(「あな」+形容詞の語幹)。
解説

「かくのたまへど…確かにのたまへ」は光源氏の言葉。物の怪に、誰なのかはっきり名のるよう求めている。

「知らね」の「ね」は打消「ず」の已然形で、「こそ」の結び。

原文
ただ副それなる断定連体御おほんありさまに格助状態、あさましシク終止と格助引用は係助強意世の常よのつねなり断定終止。

現代語訳まったくその人(御息所)そのものであるご様子で、「あきれる」などという言葉では言い尽くせない。

世の常
(「〜とは世の常なり」の形で)〜という言い方ではありきたりで、言い尽くせない。
解説

「それ」は、かの御息所。

「あさましとは世の常なり」は、「あさまし(あきれる)」などという言葉では言い表せないほど驚いた、ということ。

原文
人々ひとびと近うク連用・音参まゐるラ四連体謙→葵の上も係助強意、かたはらいたうク連用・音おぼさサ四未然尊→光源氏る自発終止。

現代語訳女房たちが(病床の)近くに参上するのも、(光源氏は)いたたまれなくお思いになる。

かたはらいたし
(ここでは)いたたまれない。
解説

光源氏がいたたまれなく思うのは、物の怪の正体(御息所)を人々に知られたくないから。

この後、葵の上は男の子(のちの夕霧)を産みますが、まもなく亡くなります。

前:葵(物の怪)①

源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 若紫①「北山の垣間見」 車争い① 須磨①

テスト予想問題

A 読み・語句

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    ①対面
    ②契り
    ③下交ひ
    ④御息所
    ⑤誰
    ⑥世の常

    解答を見る

    ①たいめん
    ②ちぎり
    ③したがい
    ④みやすどころ(みやすんどころ)
    ⑤たれ
    ⑥よのつね

  2. 次の語の本文中での意味を答えよ。
    ①さりとも
    ②けしう(は)
    ③いで
    ④あくがるる
    ⑤なつかしげに
    ⑥あやし
    ⑦うとましう
    ⑧かたはらいたう

    解答を見る

    ①いくらなんでも
    ②悪く(は)
    ③いや。いえ
    ④(魂が)体から離れてさまよう
    ⑤親しげに
    ⑥不思議だ
    ⑦いやに。気味悪く
    ⑧いたたまれなく

B 文法・敬語

  1. 次の「なむ」を文法的に説明せよ。
    ①対面はありなむ
    ②聞こえむとてなむ
    ③あくがるるものになむありける

    解答を見る

    ①強意の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」の終止形
    ②強意の係助詞(結びの省略)
    ③強意の係助詞(結びは「ける」)

  2. 「逢ふ瀬あなれば」の「あなれ」と、「絶えざなれば」の「ざなれ」を文法的に説明せよ。

    解答を見る

    あなれ=ラ変動詞「あり」の連体形「ある」が撥音便「あん」となり「ん」が表記されない形+伝聞の助動詞「なり」の已然形。ざなれ=打消の助動詞「ず」の連体形「ざる」が撥音便「ざん」となり「ん」が表記されない形+伝聞の助動詞「なり」の已然形。

  3. 次の敬語について、種類を答え、だれからだれに向けた敬意かを示せ。
    ①口惜しうおぼえたまふにや(たまふ)
    ②とおぼして
    ③しばしやすめたまへと聞こえむ(たまへ・聞こえ)
    ④とのたまふ声

    解答を見る

    ①尊敬語。光源氏から葵の上へ。
    ②尊敬語。作者から光源氏へ。
    ③たまへ=尊敬語。聞こえ=謙譲語。ともに物の怪から光源氏へ。
    ④尊敬語。作者から葵の上へ。

C 現代語訳・内容

  1. 「心苦しき親たちの御ことをおぼし、またかく見たまふにつけて口惜しうおぼえたまふにや」と思ったのはだれか。また、それはだれのどのような気持ちを推し量ったものか。

    解答を見る

    光源氏。葵の上が、残される両親を気の毒に思い、また夫の自分と別れるのを残念に思って泣いているのだろう、と推し量った。

  2. 「何ごともいとかうなおぼし入れそ。さりともけしうはおはせじ」を現代語訳せよ。

    解答を見る

    何事もそれほどまで深く思いつめなさいますな。いくらなんでも、悪いことにはおなりにならないでしょう。

  3. 「いで、あらずや」は、①だれの言葉か。②何を打ち消しているのか。③「しばしやすめたまへ」とは、何をやすめてほしいのか。

    解答を見る

    ①物の怪(六条の御息所の生霊)
    ②光源氏の、葵の上は死に別れるのが悲しくて泣いているのだという思い(慰めの言葉)。泣いているのは祈祷が苦しいからである。
    ③加持祈祷(物の怪の調伏)

  4. 「なげきわび空に乱るるわが魂を結びとどめよ下交ひのつま」について、①現代語訳せよ。②何句切れか。③どのような気持ちを詠んだ歌か。

    解答を見る

    ①嘆き苦しんで(体を抜け出し)空に迷っている私の魂を、結びとどめてください、下前の褄を結んで。②四句切れ
    ③もの思いのあまり体を抜け出してしまった魂をもとに戻してほしいと、苦しみを訴える気持ち。

  5. 「その人にもあらず変はりたまへり」について、①「その人」はだれか。②その声と様子はだれのものだとわかったか。③正体を知った光源氏の気持ちを表す形容詞を、本文から三つ抜き出し、終止形で答えよ。

    解答を見る

    ①葵の上
    ②六条の御息所
    ③あさまし・うとまし・心憂し

  6. 「人のとかく言ふ」とは、どのようなうわさか。また、「世にはかかることこそはありけれ」を現代語訳せよ。

    解答を見る

    葵の上に取り憑いている物の怪は六条の御息所の生霊だといううわさ。訳=世の中にはこのようなこともあるのだったよ。

  7. 「ただそれなる御ありさまに、あさましとは世の常なり」について、①「それ」の指す語句を本文から抜き出せ。②全体を現代語訳せよ。

    解答を見る

    ①かの御息所
    ②まったく御息所その人であるご様子で、「あきれる」などという言葉では言い尽くせない。

  8. 「人々近う参るも、かたはらいたうおぼさる」とあるが、光源氏はなぜいたたまれなく思うのか。

    解答を見る

    物の怪の正体が御息所であることを、人々に知られたくないから。