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『史記』鴻門之会⑥現代語訳・書き下し文

沛公已去、間至軍中。

沛公 已に去り、(しばら)くして軍中に至る。

沛公はすでに去り、しばらくして自軍のところへ到着した。

張良入謝曰、「沛公不勝桮杓、不能辞。

張良 入りて謝して曰はく、「沛公 (はい)(しゃく)()へず、辞する能はず。

張良は中に入って謝罪して言うことには、「沛公はこれ以上酒を飲むことができず、あいさつすることができません。

・不勝~…「~にへず」~にたえられない、できない。

謹使臣良奉白璧一双、再拝献大王足下、玉斗一双、再拝奉大将軍足下。」

謹みて臣 良をして白璧一双を奉じ、再拝して大王の足下に献じ、玉斗一双をば、再拝して大将軍の足下に奉ぜしむ。」と。

謹んで私、張良に一対の白璧を奉り、再拝して大王(=項王)の下に献上し、一対の玉斗を、再拝して大将軍(=亜父=范増)の下に差し上げさせました。」と。

項王曰、「沛公安在。」

項王曰はく、「沛公 (いづ)くにか在る。」と。

項王が言うことには、「沛公はどこにいるのか。」と。

安…「いづクニカ」どこ。 ※他に「いづクンゾ(どうして~)」という読み方もある。

良曰「聞大王有意督過之、脱身独去。已至軍矣。」

良曰はく、「大王 之を(とく)(くわ)するに意有りと聞き、身を脱して独り去れり。已に軍に至らん。」と。

張良が言うことには「大王様がこれ(=沛公)の過ちをとがめるおつもりがあると聞いて、抜け出して一人帰りました。すでに自軍に着いているでしょう。」と。

「督」…とがめる、とりしまる。

「過」…あやまち。

項王則受璧、置之坐上。

項王則ち璧を受け、之を坐上に置く。

項王はそこで白璧を受け取って、それを座席の上に置いた。

亜父受玉斗、置之地、抜剣、撞而破之曰、「唉豎子不足与謀。奪項王天下者、必沛公也。吾属今為之虜矣。

亜父 玉斗を受け、之を地に置き、剣を抜き 撞きて之を破りて曰はく、「ああ (じゆ)()、与にはかるに足らず。項王の天下を奪ふ者は、必ず沛公ならん。吾が属 今に之が虜と為らん。」と。

亜父は玉斗を受けとって、それを地面に置き、剣を抜いて突いて破壊して言うことには、「ああ、小僧め、いっしょに策をめぐらすには不足だ。項王の天下を奪う者は、必ず沛公だろう。私たちの身内のものは、今にも沛公の捕虜にされるだろう。」と。

○豎子…小僧、青二才、未熟者。項王のことを指している。

○謝罪を聞き入れた項王に対して、亜父(范増)は項王が沛公を殺す絶好の機会を逃したことに激怒している。項王と共に天下をとるために策をめぐらすことはできない、将来は沛公が天下をとるだろうといっている。

沛公至軍、立誅殺曹無傷。

沛公 軍に至り、立ちどころに曹無傷を誅殺す。

沛公は自軍に到着し、すぐさま曹無傷を罪を責めて殺した。

○曹無傷は「沛公が王になろうとしている」と項王に告げ口して怒らせていた。

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